オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

stay foolishな新聞記事

 apple1がオークションに出品され、約3000万円で落札されたそうだ。凄い値段であるが、その理由は、PC開発の歴史上、エポックメイキングな製品だから・・・ではない。今や、アップル(以前はアップルコンピュータ)を知らない人はいないだろうが、apple1を知っている人は世間一般では少ないと思う。

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 新聞(日経)紙上では「Macの原型」と紹介されているが、これは明らかな間違いだ。Macの原型は1983年に発売されたLisaだ。

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 私は、このコンピューターを初めて知った時、本当にぶったまげた。アップルはコンピューターの世界を変える気だ、と思った。日本では、NECのPC9801が市場を席巻し始めた頃で、OSなんて概念はまだ定着していなかった頃である。この頃、PCのOSの主流は、CP/MになるのかOS/2になるのかMS-DOSになるのか、はっきりしていなかった。PC−9801にはOSは搭載されていない。BASICがROMに入っていただけで、プログラミングをしないことには動作しない、ただの高価なキーボード付きTVであった。

 LisaのGUIの開発コンセプトは「マニュアルなしで、初心者が20分で操作を覚えられる事」と当時の雑誌「ASCII」で紹介されていたことを覚えている。LisaはJobsがゼロックスのパロアルト研究所を訪ねた時に見かけた「アルト」という試作機がベースになっている。ゼロックスは未来のコンピューターのあるべき姿を具現化する研究を続けていたらしい。「アルト」はダイナブック東芝じゃないよ)をヒントに開発されていたということを聞いた事がある。Jobsは、ゼロックスが「アルト」を製品化する気がないことを知り、研究者を引っこ抜き、Lisaを開発した、というのが定説である。残念ながら、Lisaは全くと言っていいほど売れなかった。コンセプトが先を行き過ぎていたのか、それとも値段が高すぎたのか、ともかく結果として、後発のWindows3.1に油揚げを持って行かれてしまった。この不幸な名器Lisaのエンハンス版がMacだ。

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  apple1は、スペックとしてはたいして目を引くものはない。性能的に注目を浴びたのは、apple2の方だろう。これは相当売れたらしい。拡張性が高い(拡張スロットが多い)ことでも有名だった。apple2はVISICALCとセットでビジネスを学ぶ学生相手に大ヒットしたそうだ。しかし、このPCもOSを搭載していた訳ではない。

 日本で似たようなヒット作にPC-9801MS-DOS+Lotus1-2-3がある。これがapple2の売られ方に近いと思う。いずれにせよ、Macのコンセプトとは関係ない。

 

 以上のことは、少し調べれば分かる事であるし、PC業界においては常識と言っても良い。ENIACやIBM360に関するエピソードと同じレベルの知識。

 よって、apple1を「Macの原型」 と紹介する事はとても恥ずかしい間違いであり、Jobsに対して失礼だ。

 JobsはMacの開発に絡んでアップルを追放されたのだ。Jobsにとっては、その後のiMacipad等、私たちのライフスタイルさえも変化させた製品群の源流とも言えるのがLisaなのだ。まさにエポックなPCだった。

 その彼が亡くなった時、以前から知っていたかの如く業績を誉め讃えていたマスコミが何で今更こんなことも知らないのか。恐らくニュースリソースがそうなっていたのであろうが、ウラもとらずコピペした記事を流す事を恥ずかしいと思わないのだろうか。

 やっぱり日本人はJobsのことなんか知らないんだ、とUSAのエンジニアから軽蔑されていると思うよ。私もこの記事を流したマスコミを軽蔑している。私が見たのは日経の記事であるが、共同通信社がリソースであれば、各社間違えて報道しているんだと思う。ウラもとらずに。

 日本人として恥ずかしい・・・常識がなくて・・・

 Jobsは、stay foolishと言ってくれたけど、これではただのfoolだよ。

 天国のJobs、愚かな日本のマスコミをお許し下さい。お詫びに、新しいMacを買わせて頂きます・・・