一番であることの意味を考えてみる 〜京速スパコンの存在価値〜
日の丸スーパーコンピューター「京」が処理速度世界一から転落したそうだ。たしか、このコンピュータ、まだ稼働していないんじゃなかったか?走る前に既に2位に陥落とはどういうこと?
このコンピュータは、例の”2番じゃダメなんですか”で有名になった。
ノーベル賞をとったエライ学者さんまでが登場して「関係者は、歴史の審判に耐える決意があるのか!」とか、訳の分からんことを言っていたが、この騒動のおかげで、この特殊な機械の存在が一躍クローズアップされることになった。
”京”は、たった1年足らずの王位だったわけであるが、その1番が持っていた意味とは、何であったのか?
何でも、やるなら1番が良いに決まっているが、話題になった理由は、この機械が税金を投入されてまで開発されていたからだ。いや、中国だって税金突っ込んでやってるんだから、いいじゃん!という考え方もあるが、これは技術屋の発想かも知れない。
そんなもん、何の役に立つんじゃい!と言う人を説得することは結構難しい。スーパーコンピュータ(以下、スパコンと略します)の使い道は、ある意味限られているように言われているが、それは違う。実は何にでも使える。サーバにだってなるし、給与計算だってできる。ディーリングのホストにもなるし、銀行の決済システムにだってなる。ただ、その使い方では、スパコンにした意味がないからやらないだけ。何故なら、そういう使い道であれば、ふつーのコンピュータで代替がきくから。わざわざ、ベクトルやアレイプロセッサを搭載したり、超並列型のプロセッサ構成をとる必要がないから。そんなもの付けなくても、今の並列コンピュータは十分に速い。
現に、自動車の衝突シミュレーションや、気象予測は”京”を使わなくてもできる(現に気象庁のスパコンは日立製)。つまり一番じゃなくても目的は達成できる。
(気象予報は、直近のデータを高速処理できるスパコンを使った方が的中率が高い。スパコンでなければ予測できないわけではない)
スパコンでなければ、有効な解答が出せない命題はある。例えば、地球規模の環境シミュレーション(地球シミュレータが有名)や、宇宙の構造解析などは、恐らくその分野だろう。これらの命題には、”京”を使った方が、より速く、正確に解答が出せるという事。
宇宙誕生のシミュレーション(ビッグバン)なんて、スパコンを使わないと一定時間内(例えば自分たちが生きている間)に解答を出せないと思う(普通のコンピュータでは計算が終わらない)。この観点では、一番を狙うというよりは、開発時点で最大速度を出せる機械を開発するということには、スパコンの性質、目的からも必然性が出てくる。
このことから、税金使ってまでスパコンを造るということは、税金使ってまで「宇宙の構造を明らかにする」ことを”是”としますか?という問いに変える事ができるんじゃないかと思う。
因に、税金を多量に突っ込んでいる「カミオカンデ」は日常生活の役には立たない、とノーベル賞をとった小柴教授は言い切っている。
・・・さて、どう考える?
私は”あり”だと思っている。
日本は科学技術の発展に貢献する国として、世界にその意思・姿勢を明らかにしてほしいと思っているから。
USAにとっての宇宙開発みたいに・・・
日本は、紛争解決の面での国際貢献はできない(以前に触れた)。高度な政治判断や国家間の調整も政治家がアホだから無理。日本がクールな立ち振る舞い出来るのは、科学技術の分野ぐらいではないか、と思う。それも、相当がんばらないとUSAやドイツには叶わないが。
「日本のスパコンには、アニメがペイントしてあるらしいぞ。クールじゃないか」
「何でも、箱根の地下に巨大なコンピュータルームを建設して、”NERV”と名付けて いるらしい」
「きっと、ボディは紫色だな」
「日本のスパコンは、ただみたいな値段で時間貸しできると聞いたぞ」
「それじゃ、この研究は日本でやろう!」
「アスカやアヤナミに会えるゾ!」
・・・・・・
日本は、ODAをばらまくよりも、「科学技術の支援を国是としました」と世界に向けその意志・方針を発信する事の方が、よりアカデミックで名誉ある地位を確保することに繋がるんじゃないか、と考えている。
スパコンは核兵器の開発にも使えるので(核分裂シミュレーションはスパコンでやる)何にでも、誰にでも使える、というのは少々無理がある。しかし、人類の叡智を磨くことに期する事ができるのであれば、どのような分野の人にも等しく安価で、システムを提供したらどうか。
これは、すごいインパクトを世界発信できる。
これは、「日の丸スパコン」「不器用な日本人」の生きる道。
「日本は科学技術の国です」という旗頭は、我々の価値観にもあっていると思う。
平和ボケを自任する我々が、軍事技術で誉められるのはイヤでしょ?