オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

じじい達は本当に”86”を支持しているのか?

 近所のイトーヨーカドーに86(ハチロク)が展示してあった。

 雑誌では知っていたが、間近で見るのは始めてだ。色は黒。この手のスポーツカーは、ずんぐりむっくりスタイルに黒を塗るとゴキブリみたいに見える事がある。これも、カワウソみたいだ。

 しかし、車高も低く結構かっこいい。

 ボンネットが低い。

 エンジンルームを見たかったが、そこまでやると営業が寄ってくるので止めておいた。フロントのディスクブレーキが本格的。GT-Rのように派手なカラーリングまではやっていない。レガシィでは結構そこを主張するのに、今回はトヨタとの合作ということで、上品に仕上げているのか、と勝手に憶測する。

 リアシートはポルシェ並み。あんなの誰が座るんだ?

 10分以上のドライブは間違いなく拷問になる。Mでなければあそに座りたい人はいないだろう。レビン/トレノの半分ぐらいだ。

 ふ〜ん。結構いいじゃん。

 でも、買わないな。

 これって、どういう人が買うんだろうか。

 この2年間、一番売れている国産車プリウスだ。猫も杓子も商店街の八百屋の親父もプリウス補助金付きで買う時代に、同じメーカーから、クラッシックな車が発売された。不思議、だ。

 86は往年の名車(?)、レビン/トレノの形式名”AE-86”から取られたものだ。私たち、おっさんは若い頃、FFカローラ派生の軽薄スポーツカーもどきのレビンとの違いを意識して、”86レビン”とか言っていた。

 私の1つ下の友人は、これをすぐ買った。理由は、「最後だからね」。

 最後とは、FR(後輪駆動)の、という意味だ。それだけで買う人がいるのだから、そういう時代であったのだ。彼はラリーをやっていた。ラリーでFFというのはあり得ないから。

 リタイア前後の大昔の若者、車好きの私みたいなおっさん、若い人へのスポーツカーの新たなる提案等、マーケティング文句が白々しく並べられて新聞、雑誌に大々的に広報されていた。

 購買者へのインタビューで「自分なりに足回りをチューニングしてみます」との感想が聞けたという記事があった。ホントか・・・?

 

 これは、相当怪しい発言だ。本当にそう言ったのであれば、インタビューした相手はプロ。

 そうでなければ、生半可な知識の編集者がヤラセで作った記事だ。

 足回りのチューニングを86を買って本当にやるのか?それも「わたしなり」という最近の意味不明な言い回し。私だったら、そんなおかしな言い回しはしない。「まずは、固めないといけませんね」だろ。「私なりに」だと・・・?

 

 車のチューニングの手続きと言えば、

・エンジン制御用ROMの交換。最近は基盤ごと交換らしい

・リアシートを取っ払ってロールバーを入れる

・フロントにスラビライザー装着

・マフラー交換(これは必須だな)

・ステアリングの交換(ピニオンをどうするのかは知らない)

・ディスクブレーキの強化

・ダンパーの強化

・コイルスプリングの強化

 

 ここまでが定番。誰でもやりそうなこと。

 しかし、このあとは相当ハードルが高そうだ。

 

・制御ROMの専用プログラミング(本当にやれるの?)

・エンジンシリンダーの研磨と最適化

・ボアアップ

・バルブスプリングの交換

・発展してバルブヘッド全体の交換

 

 これは金がかかりそうだ。エンジンマウントを外さないとできない作業だ。

 この中で、「私なりの足回りチューニング」は含まれていない。

 ダンパーとスプリングは高速制動、コーナリング時の安定性向上のために行うものであり、”チューニング”ではない。”強化”だ。

 先の購買者は、その人なりに一体何をチューニングするつもりなのであろうか?

 ダブルウィッシュボーンのジオメトリをいじろうとでもいうのか?

 自分なりのジオメトリに?

 本気かよ・・・。そりゃ、プロの仕事だよ。

 今の時代に類い稀なるコンセプトの車が出てきたのは嬉しいが、この宣伝は頂けない。やっぱり、消費者を雰囲気に載せて騙そうとしているのが伺える。

 だいたい、定年前後のじいさん達はレビンなんかに恋をしていない。あの人達は、革張りシートのお下劣なクラウン/マークⅡが好きなのだ。

 6気筒の高性能エンジンを馬鹿でかい重いボディに載せた旋回性能の低い戦車みたいな動きをする高級そうな車が好きなのだ。

 女にもモテたし。

 間違っても、油にまみれてチューニングなんかやってなかった。

 札ビラ持って、女をナンパしていた連中だ。

 思い出捏造もいいかげんにしてもらいたいね。

 アホらしいほどに、おかしな記事だった。

 しかし、本当に誰が買うんだ?

 記事とは違い、この車が相当売れていることは事実、だ。