オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

ルネサスの未来を想う

 経営不振のルネサスエレクトロニクスの救済に、トヨタパナソニックなどの国産メーカーが動き出したとの報道がなされている。「大手半導体メーカー」、「日の丸半導体最後のメーカー」というような紹介のされ方であるが、この間経営破綻したエルピーダメモリとは作っているモノが全く異なる。

 半導体を加工しているのは同じだが、エルピーダメモリはその名の通り、メモリ/半導体記憶素子(装置ではない)を製造している。それも、D-RAM/ダイナミックメモリだ。”ダイナミック”とはstatic memory(S-RAM)に対比して用いられている。

 D-RAMは実はハイテクではない。

 簡単に言うとコンデンサみたいなもので、電気を通さない2層の壁に電圧をかけて電位を記憶するという簡単な構造のものだ。

 構造がシンプルなので集積化をし易い。ムーアの法則ではその集積度は「18か月ごとに倍になる」と言われた。下記がその式。

p = 2^{n/1.5}

 この何とも微妙な分数を含んだ式は、言い換えると「メモリ容量は36ヵ月毎に4倍になる」となる。この方が分かり易い。3年で4倍。つまり3年毎にモデルチェンジする、その時容量は4倍になる、と理解した方が分かり易い。

 4倍には理由がある。

 半導体ウェハは四角形をしているが、その一辺のエッチング密度を倍加するので2×2で4倍になるのだ。

 「〜μm製造プロセス」とか言われている”〜”が電流の通るバスの間隔(隙間)で、これを1/2ずつに縮めていくのがメモリの技術革新の基本部分だ。

 この製造ラインを入れ替えるには、10年前に私が聞いた時には200億円とか400億円とかいう資金が必要だと言っていた。この莫大な資金を3〜4年毎に投資し、回収するのがメモリビジネスだ。

 これは辛い。

 国産半導体メモリ事業が相次いで撤退を余儀なくされたのは、この市場競争の環境に追随しきれず、ビジネスモデルを維持できなかったためだ。

 簡単な経営ではない。電機業界では「ジェットコースター型ビジネス」と揶揄されていた。今は、サムスンが業界1位。

 

 さて、ルネサスが製造しているのは、D-RAMではない。

 マイクロプロセッサとその周辺LSIだ。それも、RISCプロセッサというもの。

 業界では有名な「SuperH」、SHマイコンだ。

 この製品、意外や業界シェアトップのCPUだ。このプロセッサは、SEGAサターンやカシオペアに搭載されていたが、そんなことを知っている人はごく一部だったろう。

 制御用コンピュータ、組込み機器として、多くのプロダクトに搭載されている。トヨタパナソニックが救済に乗り出す理由も、自社製品への搭載率が高いからだと想像できる。

 この手のものは、インテルCPUなどで代替が簡単にはできない。基盤を始めとして、多くの設計変更が必要となるからだ。極めて付加価値が高い工業製品だと言える。

 では、そのような製品を作っているメーカーが、何故、経営危機に瀕しているのか。

 詳細なことは知らない。

 エルピーダとは事情が異なると想像する。

 D-RAMは典型的な設備投資型ビジネスだ。シェアトップを維持できないと投資回収ができない。ある意味、体力勝負なのだ。

 しかし、組込みプロセッサはメモリとは異なり、アーキティクチャを簡単にはマネできない。どこでも、作れるものではないのだ。

 以前、関係者から聞いたことがあるのだが、このような複雑なチップは歩留まりの問題がついて回るそうだ。

 SuperHも製造に相当苦労しているらしく、例え話であるが、100個作ったら5個しか検査に合格しない、とか言うことを聞いたことがある。

 これでは、儲けることはできない。

 品質が自慢の国産メーカーも、品質確保に四苦八苦しているのであろうか。それもとも、メモリと同じく、設備投資と生産量、市場価格との兼ね合いの問題なのであろうか?

 私には、そこまでは分からない。

 国産メーカーがこの分野から撤退することは、製造業・モノ作りに拘る経営者からすると忸怩たる思いがあると推察できる。

 国(経済産業省)としても、何とか最後の砦を守りたいとの意思があるはずだ。しかし、厳しい財政状況下、エルピーダの経営破綻の事例もあり、公的資金をここにも突っ込む訳には行かないのであろう。

 しかし、極めて高度な製造技術を要求される高付加価製品であり、日本の製造業を代表するに相応しい分野でもある。このような基盤技術は、一旦撤退してしまうと、一朝一夕には再生できない。関係者には諦めてほしくない。

 モノ作りの雄として、踏ん張ってもらいたいものだ。心から応援している。

 ルネサスに復活(ルネッサンス)が来ますように・・・