善意で満ちた国
本屋の駐車場に車を止めて、ポケットに手を突っ込んで気が付いた。
「家の鍵がない!」
確かに家を出る時には、ポケットに突っ込んだので、何処かに落としたのに違いなかった。ここに来るまでに、立ち寄ったのは図書館だけ。
あそこの駐車場に違いない。
すぐさま図書館に電話をしてみた。
ゆず「すみません。つかぬ事を伺いますが、そちらに鍵の落とし物は届いていないでしょうか?」
図書館のおばちゃん「少し、そのままでお待ち下さいね。・・・。一つ届いていますよ」
ゆず「私が落としたものではないか、と思うのですが」
おばちゃん「何か鍵の特徴は言えますか?」
ゆず「ディズニーシーのキーボールダーが付けてあります。長細いものです」
おばちゃん「イルカの顔が付いているものですか?」
ゆず「いや、ミッキーマウスでしょ?!」
おばちゃん「ああ、このキラキラしたやつですね。」
ゆず「(恥ずかし!)助かりました。今から取りに行っていいですか?」
おばちゃん「ええ、どうぞ。お待ちしています」
おかしいな?イルカなんぞ知らんぞ。何の事だろうか・・・・
ともかく、急いで私は図書館に車を走らせた。図書館の受付で預かってくれているらしいのだ。
図書館に着くと受付にまっしぐら。
ゆず「先ほど電話したものです。鍵を落としました」
おばちゃん「ああ、先ほどの方ですね。これでしょうか?」
ゆず「確かにこれです。いや、助かりました。ありがとうございます」
おばちゃん「駐車場の入口に落ちていたのを、女の子が届けてくれました」
ゆず「そうですか。本当にありがとうございます。何か手続きは必要でしょうか」
おばちゃん「いいえ、そのままお持ち下さい」
本当に”イルカ”だった。この間、八景島に行った時に買ったものだった。忘れていた・・・。
そう言えば、どこにも”ディズニーシー”とは書いていない。ファンタスミック、と書いてあるだけだ。それに、ミッキーもよく見ないとそうとは分からない。
「確かにこれは”イルカ”だな・・・」
大切なものには、何か目印になるようなものを付けておいた方がいい。私はキーホルダーが好きなので、持ち物には何かしらのものを必ず付けている。今回はそれが目印になり役に立った。
しかし、”イルカ”には少し恥ずかしい思いをした。
どなたかの善意によって助かった。
つくづく日本という国はミラクルだ。
私は慌て者で、時々落とし物、忘れ物をするが、これまでその殆どは手元に戻っている。最近、記憶にあるだけでもSUICA定期券を2度拾ってもらったことがある。2回とも手元に戻った。
届けてくれた女の子(美しいレディ/マダムかもしれない)に感謝します。
私も何か意識して善意の行動をとらねばならない。誰かから善意を頂いたのであれば、私も誰かに受け取ってもらわなくてはならない。
世の中は、善意に満ちあふれている。全てではないが。
この善意のエントロピーは減少させてはいけない。
少なくとも総量は保存するか、あるいは出来る限り増やして行かねばならない。
それが人の生きる道だ。
・・・しかし、押しつけではなく、善意を生み出す事は、意外と難しい。