オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

ガリレオの意志を継いだ人達

 「ハリー! どこに行くんだ?」

 振り返ってみると、後ろから走って来たのはレンだった。

 「大学まで。フックと待ち合わせしてるんだ」

 「また、例のことか?いい加減にしたらどうだ。きりがないぜ」

 確かにレンの言う通りかも知れない。もう、これを考え初めてから随分と時が経つ。やはり、私にはこの問題を解く能力が無いのかも知れない・・・。

 でも、知りたい。

 解があるのであれば。

 それは一体、どういう仕掛なのだろうか。本当に”あれ”はやってくるのだろうか?

 「フックが賭けようと言ってきた。先に謎を解けた方が所有者だと」

 「何を賭けた?」

 「あのエロ本」

 「お前、あれが欲しいのか? あのグラドルの? 若いな〜。いや、実際若いけど・・・」

 「いや、その、別に・・・」

 「レンはフラムスチードさんの所?」

 「ああ、天文台の件、正式に決まった。俺が図面を引く。場所はグリニッジだ。あそこに世界最先端の天文台を作る」

 「形があるものを残す、凄いね、君は。僕は未だに・・・・」

 「ハリー、俺もその賭けに乗るよ。いや、彼女の裸に興味はない。裸は女房だけで十分だけど、ここは成り行きだ」

 レンは、ハリーの肩に腕をかけた。二人はスキップをしながら、あの嫌な野郎の待つ場所、「ケンブリッジ大学」へ急いだ。

 

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 大学の一室。

 「一点に向かう力で、その力の大きさが、その点からの距離の二乗に反比例する力を受ける物体は、どのような軌道を描く運動をするか?ハリー、お前の意見は?」

 フックは、いつもの嫌みな笑みを浮かべながらハリーに問うた。

 「まだ、結論は出ていない」

 「やはり、お前には無理か?」

 「お前は、ケプラーの理論を全て理解しているんだろ?であれば、お前は答えが分かっているのか?」

 フックは口ごもる。

 「・・・、いや、それとこれは違う。二乗分の一はケプラーの式にはない・・・」

 「だから、どう違う?」

 「・・・・」

 しばらくの沈黙。

 

 「新しい天文台が出来れば、また有益な観測データが得られる。また、展望があるんじゃないか?」

 レンがそう言うとハリーはすぐさま否定した。

 「いや、ティコの観測データは正確だ。火星と木星の軌道についてこれ以上、欲しいデータはない。欲しいのは別のデータだ、例の軌道が知りたいんだ」

 「ハリー、あの話と今回の賭けと何か関係があるのか?」

 フックは改めて聞いた。

 「あるかもしれない。でも、証明できない」

 ハリーの悩みは深い。

 その時、レンが言った。

 「2人はミスターZを知ってる?」

 「Zって、あの?」

 ハリーとフックは声を合わせた。

 「天文台の件で、彼には色々とアドバイスをもらっている。あの天才に聞いてみたら?」

 レンは重大な提案をしてくれた。そうだ、彼に聞いてみよう!ハリーはそう思った。フックも頷いている。嫌なヤツ、フックと意見が合ったのは初めてだ。

 

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 レンに案内されて辿りいたその場所は大学の外れにあった。

 部屋の前に立つと、何だか嫌な匂いがした。何か、変。ハリーポッターの世界に似ている。

 「レン、何か変なんだけど・・・」

 「ハリー、答えがほしいんだろ?」

 「確かに・・・」

 ハリーは扉をノックした。まもなくミスターZは姿を現した。

 「これが、あのミスターZ?」

  ハリー、フックは目が点になっていた。レンはそれまで何度か天文台の件で会っているようで、いつも通りらしい親しげな言い方で話した。

 「先生、誠に恐縮なんですが、仕事の話の前に私の友人の悩みを聞いて頂けませんか?」

 レンは、相当年下に見える若造に丁重な言葉遣いでお願いした。ミスターZはこう言った。

 「△☆〜!□※」

 

 何を言ってるのかさっぱり分からない・・・。ひょっとしてラリっているのか?3人は一瞬凍りついた。

 ハリーは、切羽詰まっていた。懸命にフックと今賭けている課題、これまで考えてきたこと、そして仮説について説明した。

 暫くの沈黙・・・。

 

 彼は、ミスターZは言った。

 「楕円だよ・・・」

 「?!」

 「疑うなら石にでも聞いてみるか?」

 フックとハリーは顔を見合わせた。そしてハリーの口から思わず言葉が出た。

 「ケプラーの式だ・・・」

 「いや、彼ではなく20年前の私の論文を見れば分かるだろうが・・・。つまり、天空のあらゆるものはだな・・・、その自身の重さに比例するが、距離には・・・」

 レン、フック、ミスターZを無視し、ハリーはその場を走り去った。

 ハリーは、家に帰るなり、それまで机の上で束になっていた紙を取り上げ、何やら書き始めた。次々と書き続けた。

 やがて・・・、やがて彼は、「ふう〜」と息を吐いた。

 フックとレンが家に飛び込んできた。

 「ハリー、どうしたんだ?わかったのか?」

 2人は息もからがらに聞いた。

 「ああ、分かった。2年前に見たあの大彗星、レンもフックも覚えてるよな?」

 2人は言う

 「もちろん!」

 「あれは、楕円軌道を描く彗星なんだ。僕の計算では、74年後、1758年に再び姿を現す。間違いない」

 フックが言った。 

 「いや、戻ってくる彗星なんてないだろう?聞いたことがない!」

 「戻ってくるよ・・・。だって、彼は、ミスターZは言ったじゃないか。”楕円”だって。これで、すべて、全ての数式が解けた。全ての解は出たんだよ。フックの出した課題の答え、それがあの彗星の軌道なんだよ。僕は、2年前に見たあの彗星の軌道をずっと計算してきた。でも、放物線までしか思い浮かばなかった。でも、分かった。楕円なんだよ。ケプラーの第一法則に従っているんだよ。1531年、1607年の記録にあるコメットもこれと同じヤツだ。間違いない!」

 「ハリー、俺たちはそれを見ること、証明することはできない・・・」

 フックが言った。

 「いいじゃないか。その時になれば証明される・・・」

 「本当に信じているいるのか?ハリー?」

 ハリーは言った。

 「間違いない。ありがとう、アイザック。アイザック・ニュートン