オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

「日食」はハンティングするものではありません

 5月10日にオーストラリアで金環食が見られたそうだ。

 そう言えば、昨年の今頃、ほぼ日本全国で金環食が観測できた。

 あれは、私達にとっては相当ラッキーなことだった。日頃、天文現象に興味の無い人でも、あの時だけは空を見上げたのではないだろうか。

 私も早起きして、ずっと待機していた。あいにくの天気であったが、雲の合間から何度かリングを見る事ができた。

 金環食をこの目で見る事ができるのは本当に運がいいことであり、この時代に存在したことに感謝した。

 かといって、わざわざオーストラリアまで日食を見に行くか、と言えばそれはない。私にそんな、暇と金はない。いや、暇はあるかもしれないが、恐らく、よほどの金持ちであっても、私はそこまではしない。

 昨年の日食のその前に、奄美大島付近で、やはり金環食が観測できるという話題があった。ノリピーが当時のダンナとドラッグを「あぶり」ながら(下品な表現で失礼。本人がそう言っていた)見ていたというアレだ。

 その時、NHKがこれまで10数回以上、世界中を駆け回り日食を見ている(観測ではなく見ているだけ)人を紹介していた。

 NHKはその人のことを「日食ハンター」と言っていた。

 

 ハンター?

 これは、間違いだ。

 彼がやっているのは、ウォッチングであり、ハンティングではない。

 「追っかけ」とか「チェイサー」というならまだ分かるが。

 そんな細かい事、どうでもいいじゃん、と思われるかもしれない。

 確かにその通りだ。しかし、このことはNHKの番組制作者が、天文学に対する基本知識が無いことを意味している。私としては見過ごせなかった。

 メシエ(Charles Messier:1730〜1817)に謝れ、と言いたかったのだ。

 何の予備知識を持たないにもかかわらず、あたかも日食を何十回も見る事が大層凄い事だ、偉大だ、「彼は狩人だ」と、ちょこざいな表現を使ったのだ(彼の熱意には感服したが)。

 表現を訂正してもらいたい、と思った。

 日食のように、いつ、どこで発生(観測)するかが、計算で正確に予見できている現象を見に行く人をふつう「狩人」とは言わない。だって、いつ、どこに獲物がいるか分かっている。

 こんなの「狩り」でも何でもない。明らかな誤用だ。

 それともNHKは、毎週日曜日の夜に「大河ドラマ」を欠かさず見ている人を「狩人」と呼ぶのであろうか。

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 「狩人」という言葉が天文学で使われるのは、本来「コメットハンター」に対してだ。

 天文学の歴史の中で、最も有名なハンターは「シャルル・メシエ」だろう。

 ウルトラマンは、M78星雲から来たことは子供でも知っているが、この”M”はメシエの”M”だ。

 

 メシエは、コメット(彗星)を見つけることに生涯をかけた。

 その為に、毎晩、夜空に望遠鏡を向けていた。

 来る日も来る日も・・・。

 いつ、どこに現れるかも知れないのに・・・。

 人は、これを「狩り」に例えたのだ。

 

 メシエのコメット・ハンティングを邪魔していたのは、星雲、星団、銀河といった天体だった。

 これらの天体は、当時の望遠鏡で見たら、ボ〜、モヤッ、としており甚だ彗星と見誤りやすかった。そこで、彼は彗星と間違えない為に、星雲、星団、銀河の天球座標を調べ上げ一覧表を作ろうと考えた。 

 これらの天体は、彗星とは異なり、天球での位置を変えないため、あらかじめその座標を知っていれば見誤る事が避けられるからだ。

 メシェは、彗星と間違えやすい110個の天体をリストアップした。これを「メシェカタログ」という。

 M1〜M110まである(メシエ自身が発見したのはこの中の46個と言われている)。

 誰でも聞いた事のある「アンドロメダ大星雲」はM31、「昴」はM45だ。

 現代にもコメットハンターはいる。また、超新星の発見に人生をかけているノバハンターも数多くいる。

 夢を追いかける人達だ。

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 さて、日食に話を戻し「サロス周期」を紹介しておきたい。

 日食は、地球から見て太陽と月が一直線に並んだ時に観測される。つまり月は、新月の時だ。

 地球から見たときの太陽の軌道(黄道)と月のそれ(白道)は異なっている(約5°)。よって、両者の軌道が少なくとも交差する時でなければ日食にはならない。

 月が新月になる周期は、29.5306日。

 月が黄道上の交差点に戻ってくる周期が27.2122日。

 この2つの周期は、6585.32日で一致することになる。

 つまり、端的に言うと、少なくとも18年と10日に一度、8時間ずれて日食が起きるということを示している(実際はもっと頻繁に起きる)。

 これを「サロス周期」といい、カルデア人天文学者が紀元前の時代に発見していたらしい。

 バビロニアの時代の人は、日食が起きる日を知っていた・・・

 私達が「日食をハンティングしている」と言ったら笑われると思う。