ブラックな計算をしてみましょう
労働基準法で1日の所定就労時間は8時間と決められている。
このことに例外は無い。
日本国内に事業所をおく限り、全ての企業はこれを守らねばならない。この8時間を超えて従業員を働かせた場合は、時間外労働、つまり「残業」となる。
では、人は1ヵ月でどの程度の残業をすることが計算上可能なのだろうか。
1日は24時間だ。
一般に、労働者は自分の家で寝泊まりするので、必然的に「通勤」が発生する。これを便宜上、往復で2時間としよう。
どれだけ忙しくとも、人が継続的に労働するには睡眠が必要だ。
どんなに頑強な人でも、平均4時間/日、は眠らないと1ヵ月間継続労働することは難しいと判断する。
そうすると、1日に働くことの出来る最大時間は、24−2−4=18時間、となる。
この中で8時間が所定労働時間だから、1日当たりの残業は最大10時間あたりが限度だと想像できる。
週休2日制であるから、1ヵ月の所定勤務日数はざっくり捉えて20日間だ。1日10時間の残業をず〜っとやったとして、10時間×20日で200時間の残業が可能という計算になる。
1ヵ月の休日数は祝日も考慮すると平均的には10日間くらいか。
で、あれば休日なしで働くと考えてみる。さすがに休日出勤して平日と同じ10時間の残業をしていると体がもたない。
ここでは、8時間プラス2時間の残業と仮定する。そうすると10時間×10日で100時間。さきほど計算した平日残業分を加味すると、200+100=300時間となる。
本当にこんな勤務があり得るのか、と問われれば「あり得る」。
バブルの頃、私の友人はこのような勤務を1年間にわたりやっていた。
ただし、相当にキツイ。
慢性疲労で凄まじい苦痛を感じると思う。
精神的にも限界がくる。
この場合の睡眠不足は相当に深刻で、肉体に決定的なダメージを与えるだろう。おかしな行動にでることも十分に考えられる。人は眠らないと正常な精神を維持できないと言われている。
「過労死」が危惧されるのは上記のような勤務形態が本当にあった時だ。およそ、 ”300時間” などという残業が計測された時は生命への危機に現実感を持った方がよい。
このシミュレーションには前提がある。
このような非人間的な勤務が可能となる就業環境が存在することだ。つまり、会社が一晩中開いている(出入りできる、勤務できる)、サービス業であれば店舗等が開業しているということだ。
どんな屈強なビジネスマンであれ、働く場がなければ「残業」はできない。24時間営業(勤務/在籍)が可能な環境がなければ、長時間労働もまた可能とならない。
一方で、休日出勤をしたにもかかわらず、代替の休養日を設けないと上記の様に、月300時間などという、おぞましい残業実態が現出することになる。
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某居酒屋チェーンの元経営者が「ブラック企業」との批判に対して反論をしている。
客観的な勤務統計・数値を示し「業界平均よりも下回っているので ”働かせ過ぎ” はあり得ない」とのことらしい。
果たして、その居酒屋店舗の労働時間は、どのようにして計測されているのだろうか。
「タイムカード」?
それとも、自己申告?
日本企業の恐ろしい所は、「サービス残業」なるものが堂々と存在、偏在することだ。
この奇妙かつ恐ろしい勤務形態は、実労働時間が「計測されない」。
つまり、本当は何時間働いていたのかが本人以外には「分からない」のだ。
世の中の「悪意」のないブラック経営者は、社員の真の労働時間を把握できていない。
「過少申告」された労働時間を、「実時間」と受け取ってしまうのだ(わざと見て見ぬ振りをするなら本当のブラック)。
しかし、これは経営者だけの責任ではない。事実とは異なる申告をした労働者にも非がある。例え、間接的にそれを ”強要” されていたとしても・・・
某居酒屋で何があったかは、わからない。
しかし、「業界平均を下回るからブラックではない」との言い分はいささか底が浅く見える。私には、深く従業員の健康維持に腐心している経営者とは見えない。
「本当は300時間越えの勤務実態があったのではないか」と自らの経営を疑い、真相を調査することが経営者としての「理性」であり、求められる「真摯さ」というものではないだろうか。
自分の手元にある「数字」を信じているのであれば、それは愚かなことだと思う。「数字」は嘘をつかないが、「部下」は嘘をつく。都合の悪い情報は、上位に行くに連れて劣化するものだ。
つまり、「悪い情報」はトップには上がってこない。
このことは経営者にとっての「常識」だと思う。
経営者ではなく、政治家になるようだが・・・