市井の人々に愛された歌
「歌い継がれる昭和歌謡」なる番組を見た。
この10年間で最も歌われたカラオケ曲のベスト20を流すものだ。
中には、歌手ご本人が歌っていらっしゃるものもあった。
「未来に伝えたい歌」云々というと、何でこれが? というようなものが数多く出て来て、私のようなおっさんには到底理解不能な番組が出来上がってくることが多いのであるが、今回の内容は多いに共感できるものだった。
逆に、スナックで一杯やったりしない若い人達にとっては、「さっぱり分からない」趣向のものであったと思う。
いや、たまにはこういう大人(おっさん/おばはん)向けの番組があってもいいじゃない。
「居酒屋」という歌は、20代の頃、先輩に連れられてスナックに通っていた頃、必ずと言っていいほど聞いていた曲だ。1日に1度は必ず聞いた様な気がする。
私はこの歌が、五木ひろしと木の実ナナによるものだ、ということを相当後になって知った。「誰の歌なんだろう〜?」って考えながら、お店のママとよくデュエットしていたものだ。
お二人が歌うオリジナルをTVで初めて聞いたとき、「えっ、こんな歌なの?」と正直驚いた。私はこの歌を人が歌っているの聞いて覚えたもので、このように軽く歌うものだとは思っていなかった。当時、各々が、自身の思いを込めて、さまざまな情感を込めて歌っていたのだということを、後に知る事になった。
全くもって、名曲だと思う。もちろん、ご両人による歌唱は最高である。
テレサ・テンさんの歌が2曲も入っていた。
私は、20代の頃、この歌の良さが分からなかった。
歌に出てくるような、女性の情愛の綾が理解できなかった。よくも、結婚できたものだ。妻には感謝せねばなるまい。
しかし、今、彼女の歌を聴く度、目頭が熱くなる。あのように、テレサのようには誰も歌えないと思う。
彼女は、何を思って「つぐない」「時の流れに身をまかせ」を歌っていたのだろうか。それとも、身を焦がすような恋愛をしていたのだろうか・・・
慕ってくれる女性がいるのであれば、男はそれを大切にせねばならない。人を想う気持ちの大切さ、尊さ、そして儚さを感じさせる歌だった。
石川さゆりさんの歌については、文句のつけようが無い。あの歌は、実は私も歌う事がある。しかし、カラオケでいうならば、彼女の一番は「津軽海峡冬景色」だと個人的には確信している。私は、東北に行った時のスナックでは必ずこの歌を歌う。映像付きのカラオケだと、間奏の際に青函連絡船の後ろ姿と汽笛が入る。情感たっぷり・・・だ。
今回の選曲は、CDやアルバムの売上ランクではない。ネットからのダウンロード数の実績でもない。有線放送によるベストヒットとも明確に線引きされる嗜好の歌曲の集合体だ。
しかし、市井の人々が愛して止まない、そして、とても身近な歌の数々だ。
これは、流行歌とは少し異なり、その時代の、そこに生きる人達の情念、感情を体現できる、あるいはそれが具現化された歌がノミネートされたものだ。
ここに選抜された歌は、まさに「私たちの心の断片」だ。
これらの歌の創作に関与された方々に敬意と感謝を送りたいと思う。