やがて「偽装」は「演出」になる
先日、阪急阪神ホテルズの社長の事を散々に書いたばかりなのであるが、どうやらアホは彼だけではなかったようだ。
今朝の日経によれば、全国40カ所以上のホテル・飲食店で不適切表示が横行しているとの事。
既製品のジュースをわざわざ「生オレンジジュース」と言ったり、オーストラリア産成型肉を「和牛ステーキ」と言ったり、ロブスターを「伊勢エビ」と言ったりで、今後も、悪しき事例はいくらでも出てくる気配である。
ここまでくると、「知らなかった」や「連携不足」というよりも、このような偽装工作が当たり前の事であり、業界の常識としてまかり通っていると見るべきであろう。別に今始まったことではなく、これがフツーのことだったのだ。
騒いで、怒って、アホみたいだった。
騙されている事に気が付かない私たちが「アホ」だったのだ。
店から、企業から発せられている情報を鵜呑みして、ありがたがっている消費者側は良い面の皮だ。
モノを提供している側から見れば、「消費者はどうせモノの味も価値も分かりはしない」「高級品を匂わすメニュー表示をすればアリのように集ってくる」「喜んで、美味しい美味しいと言って金を払っていく」という論理だ。
ここに、業界、職業人のプロ意識の大きな欠如と美学の欠落を指摘しておきたいが、もはや日本全体がこのような情けない方向に進んでいる事を自覚せざるを得ない。
一部の特殊な、金の亡者や拝金主義の卑しい人間だけがこのような愚行をしている、などという楽観主義には立てない。
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ヤラセを「演出」というらしい。
人を自殺にまで至らしめる極度のイジメは「プロレスごっこ」。
窃盗は「万引き」とも表現するらしい。
それなら、売春を「援助交際」というのも構わないし、売春婦という刺激性のある職業名には、今風のもっとスマートな呼び方をつけてもいいはずだ。
「強盗」「殺人」「詐欺」などの許せない犯罪名にも、もっとしなやかな呼び方がつけられる。マスコミは、もっと刺激の少ないエレガントな言葉を考案してほしい。
TPPにおける「聖域」や、消費税による大増税も、国民の心情にもっと優しく語りかける心地よい響きの言葉を使ってはどうか。
グループからの脱退を「卒業」というのは何故か?
番組の降板も「卒業」らしい。この表現の方が何かいいことがあるのだろうか?
特定の人物にスポットが当たる場合、その人が女性であれば、とたんに「美人XXX」とお下劣な表現が軽々しく使われるのは何故か?
外見の価値判断は人によって異なる。特に、ニュース報道においては、もっとも相応しくない主観表現だ。
新聞の番組欄には頻繁に「XXX(人物名)が号泣!!」などの文字が並ぶ。「号泣」の意味を知っているのか?目から涙をこぼす事を「号泣」とは言わない。「号泣」を乱発するアホは、「嗚咽」の意味を知らない。
しかし、そう書く方がインパクトがあり人の関心を惹くからこのような表現を使う。これも偽装の一つだ。
「カリスマXXX」「有名XXX」「大物XXX」などは、おおよそ全てが過大な修飾語だ。まさか本当にそのような人物が現れると思わないし、みんな(使うアホも視聴者も)、それを承知している。
CMで頻繁に流れている映画紹介も「大ヒット、上映中」と、ほぼ全ての作品につけられている。
・・・全部がヒットしている訳ないだろう。
今や、日本中が「偽装」だらけだ。
私たちも慣れてしまっていて、強く意識しなくなっている。だから、常用者がより強い薬を服用するように、宣伝文句はますます過激になっている。内容が伴っていなくても、如何にも内容ぎっしり、濃度タップリのように。
そして、業界人は言う。
「これは、演出です」と。
細かい事に拘りすぎる人は、うざったいし、鬱陶しい。
しかし、ここまで表現が曖昧でいいのだろうか?
「偽装」なのか「演出」なのか、本当に判断がついていますか?