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オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

技術を知らない人が技術を過信する

 「ブレーキの効きが甘くなって一瞬の空走(感)が生じる」。それは、「回生ブレーキと油圧ブレーキを併用している中でABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動し、油圧ブレーキだけに切り替わる瞬間、この現象が発生する可能性がある」「特にブレーキをかけている途中に凍結路や凹凸路を通過してABSが作動すると、顕著となる」

 

 これは、2010年、プリウスのブレーキトラブルが騒がれたときのメーカー(トヨタ)の状況説明だ。

 ここで説明されている内容は、一般にどの程度理解されたのであろうか。

 「一般」の方々は、自動車やハイブリッドカーのメカニズムにどの程度の知識・見識を持ち合わせているのだろうか。

 ネットでは、「ブレーキ機能は命にかかわる重要なもの。トヨタは不良を認めて誠意ある対応を早急に行うべき」との意見が目立った印象だった。

 これは、正論である。

 しかし、この正論を言っている人は、上記のメカをどの程度理解して自身の意見を論理立てているのだろうか。

 ブレーキが重要なのは当たり前で、事故の有無は関係ない。

 トヨタの状況説明をどう受け止め、どう理解し、どのように判断するかが発言のバックボーンとして重要なのだ。

 論理的・科学的根拠に基づかず、「ただ問題だ」と言っているのであれば、原子炉が破壊され汚染水が漏れ出し、高濃度の放射線が拡散している状況下で「メルトダウンはあったんですね」と聞いているアホな記者と同じだ。

 状況を見れば明らかに原子炉に損傷が発生しており、緊急的対策が必須の状況で、「メルトダウン」というニューストピック的な発言ばかりを取りたがっていたマスコミは、当時、大局観を持たず、自分達の役割、取るべき対応が分からなかった、あるいは見失っていた役立たずである。

 技術を知らないが故に、イシューを掴めていない情けない状態にあった。

 

 「ブレーキをかけている途中に凍結路や凹凸路を通過してABSが作動すると、・・・」という表現を聞いて、私が感じたのは、

 『ハイブリッドカーではなくても、こんなシチュエーションでは、車は正常にコントロールできないな』

 というもの。

 車の両輪には、左右の車輪の回転差を許容する目的で、「デファレンシャル・ギア」というものが入っている。

 これは、そもそも、車が大きく舵を切った際の内輪差を吸収する為に設けられているものだ。

 この段階で、言っている事の理解出来ない人は「トヨタの車は危ない」と言う前に、自分は車の仕組みを知らないという事実を認識しておくべきだ。

 つまり、この件について、技術的な説明は全く理解出来ないという事。これは、意見の善し悪しを言っているのではない。発言している本人が起きている「事実」が何であるのかを理解出来ていない、と言ってるだけ。

 発言は自由だ。

 さて、ブレーキをかけている途中に車が凍結路を通過すれば、そこでは恐らくASC(アンチ・スキッド・コントロール:所謂トラクション・コントロール)が働くものと考えられる。

 この際、駆動輪である前輪はデファレンシャル・ギアを経由して、左右で車体のバランスをとるための最適制御(駆動のオン・オフ)がコンピューターによって行われる。

 そして、これと同時にブレーキのポンピングとハイブリッドカーであるが故の回生ブレーキ動作が入り、即座に、回生制御から機械式ブレーキへのシステム切り替えが行われている筈だ。

 これらの動作は、全てコンピューターによって行われる。

 トヨタの説明は、この際、一瞬の空走感(0.6秒程度)が発生する、というものだったのだ。恐らく、システム間の制御切替のタイムラグだと思われる。

 雪道を走る事のある人であれば、この状況が車の姿勢制御システムの優劣にかかわらず、如何に危ないものであるかが分かっている。雪道で、思いっきりブレーキを踏んだのと似たようなものだ。

 プリウスに欠陥があろうが無かろうが、「違和感」「空走感」の有無ではなく、車自体のコントロールが極めて困難な状況なのだ。

 トヨタは「コンピューターのプログラムの問題」と発言して物議を呼んでしまったが、組込み制御を知っている者にとってこの説明は、

 「技術的に正しい」

 プログラムを数行書き換えれば良いだけの話。

 以前も書いたが、私はプリウスに相当期間乗っていた。だから断言出来るが、あの車の運転フィーリングは違和感の塊だ。不自然な挙動はいくらでもある。 

 しかし、急ブレーキをかけたときの動作は、他の車に比べ危険でもなければ、特段優れている訳でもなかった。

 結論から言うと、プリウスのブレーキ問題は、「不良ではない」

 しかし、一般の人々、ユーザーではない人、ユーザーであっても一部の人には、システム動作の正誤が判断できなかったのだ、と私は理解している。

 ここで言いたいのは、「機械は万能ではない」と言うこと。

 「車は、ブレーキを踏めば如何なる状況でも安全に停止するものだ」なんてこと、あり得ない。

 私は、これは現状では「常識」だと思っている。

 世間一般は、このことをどう考えているのであろうか・・・

 

 マツダ試乗会で事故があったそうだ。

 衝突安全システムが作動せず、そのまま壁にぶつかったとのこと。

 これは、機械/人間のどちらのエラーなのであろうか?

 VW UP!にも同様のシステムが搭載されているが、試した事は無い。本当に停止するかどうか、確かめては見たいが、まさか本当に車をぶつけてみる訳にもいかない。

 このシステムのお世話にならないことが一番重要だ。

 スバルのEyeSightは、素晴らしいシステムだ。今後、他メーカーからも続々と自動運転システムが提案されるものと想像する。この事自体は、喜ぶべき事だ。

 しかし、危惧するのは「何をやっても絶対に安全」「安全はメーカーの責任」と考える短絡的な人達がいないか、だ。

 先ほども言ったが「そんなこと、あり得ない」

 ニュース記事によると先の事故は、システム設計上の規定速度30Kmを超えた速度でブレーキ操作を行ったことが原因である可能性があるとのこと。

 システムが作動しない領域で、システムの動作検証を行ったと言うことになる。

 で、あれば皮肉にも逆説的な警告が必要だ。

「技術を知らない人は、技術に頼らない方が良い」