オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

ロビタの心

 2482年、ひとりの少年がエア・カーから墜落死した。

 彼の名はレオナ。

 レオナは幸運な事に先進医学の力により生き返った。しかし、地面に激突した際に破壊された彼の脳の再生は、上手くいったとは言えなかった。

 彼は、事故の後遺症で人間や生き物を正常な姿として捉えられなくなっていた。一方で、無機質なもの、とくにロボットを美しい女性として見るようになっていた。

 周辺の人達は、家族を含めてレオナを訝った。

 レオナは、孤独からの救済を求めていたが、その彼に報いる事が出来る人間は傍にはいなかった。レオナの傍にいたのは、「法的に死亡した」彼の遺産相続に興味のある親類縁者だけだった。

 絶望したレオナは、街で知り合った美しい女性、チヒロを連れて逃避行に出た。

 その旅は「自分を墜落死させた犯人」を見つける旅であった。

 裏切りと失望の果てに、レオナは自らが永遠の命を手に入れる為に「タブー」を犯そうとしたことから、とある信心深い男に殺された事を知った。

 レオナは、永遠の命を手に入れようとして殺され、その結果、医療の力で生き返った。その代替に人間としての感性を失った。そして、家族も信じるべき正義も・・・。

 彼の周りには、裏切り、背信、独占欲、狂信的科学、拝金といった人間の持つ薄汚い感情と欲望しか集まってこなかった。

 レオナは「死にたい・・」と考える。

 25世紀の医学は「永遠の命」を実現する技術を持ち始めていた。そんな時、人間の欲と社会に絶望したレオナは「死にたい」と考えていた。

 終わりの無い逃避行の結果、レオナはある宇宙海賊と一人のマッドサイエンティストに出会う。

 レオナは、宇宙海賊との諍いにより瀕死の重傷を負う。

 彼の望む死は、もう間近に迫っていた・・・

 レオナはマッドサイエンティストに最期の願いを伝える。

 「僕とチヒロを結婚させてほしい。僕が愛したのはチヒロだけだ」

 チヒロは無機質な形状をしたロボットだ。

 当時、流行したアンドロイドではなく、作業用ロボットだった。チヒロはレオナの愛をうけ感情を持つようになっていた。レオナの愛に、彼女は自身の気持ちで応えるようになっていた。

 レオナの肉体は死んだが、彼の感情は電子化されチヒロの頭脳にコピーされた。

 2人は電子的に「結婚」した。そして「永遠の命」を手に入れた。

 チヒロは彷徨いの末、とある家族に拾われる。

 その家族達は、なんとなく人間っぽい立ち振る舞い、物言いをするチヒロが気に入った。「ロビタ」という名をつけ、家政婦、子供の世話係に家族の一員として迎えた。

 ロビタは、幸せな時を送った。

 時は流れた・・・

 やがて、部品の老朽化から活動を停止したロビタは、惜しまれながら業者に引き取られる。

 業者は、ロビタの複製を作った。電子頭脳もそのまま残した。

 家の主人に忠告をするロボット、誠実に家事や危険作業を代行するロボット、子供に綾取りや切り絵、折り紙、チャンバラを教えるロボット「ロビタ」は、その後量産され、人間社会の一員となった。

 

 ある子供の事故死にまつわり、ロビタはその責任を問われた。

 真実はロビタの事実無根であったが、ロボットのことを日頃から快くなく思う人達によりロビタはその事故に関する責任をとらされ「死」を命じられる。

 無惨にもロビタは溶解処分された。

 たった一体から複製・量産された何万体ものロビタは、共通の「意識」を持っていた。人間社会にいた全てのロビタは溶鉱炉に次々と飛び込み集団自殺を遂げた。

 世界からロビタは消えた・・・

 永遠の命も・・・

 時は、3030年になっていた。

 

 ・・・・・

 

 さて、

 ソフトバンクPepper君は、ロビタの心を持つ事ができるだろうか。