オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

無用の長物

 ・・・あってもかえって邪魔になるもの。あって益のないもの。

 

 これによく引用されるのは、ピラミッドや万里の長城だ。

 「戦艦大和」も仲間らしい。

 しかし、これに該当するには、必ずしも長くなくとも、巨大でなくとも良いようだ。「あって無駄」であれば、その候補にはなれるらしい。

 ピラミッドや万里の長城は、その建設された理由には定説が存在する。必ずしも「無用」ではなかったはずだ。

 大王のお墓であったり、敵の侵入を防ぐための防御壁であったりと。

 ただ、この2つは目的のためとは言え、余りに巨大で、極端に無駄が多い、と思われるが故に、その発想・思考の愚かしさに評価が集中しているのだと思う。

 そう言えば、我が国にも王家の巨大極まりないお墓は存在する。一見、ただの丘にしか見えないが。これは、「長物」ではないのだろうか・・・

 

 戦艦大和にも建造の目的はある。

 そして、この巨大建造物は、実際にその目的に沿った使われ方はされなかったが、設計思想やエンジニアリングが無駄であった訳ではない。

 戦争における兵器運用や戦略上の位置付けが、当初予定(計画)と大きく変貌してしまったが故に「無用の長物」になってしまった。

 彼を指して「無駄」とまでは言い過ぎかも知れない。

 実際、太平洋戦争において戦艦同士の「撃ち合い」が無かった訳では無い。

 日本の戦艦、巡洋艦駆逐艦は、数次にわたるソロモン諸島での海戦において、当初想定した通りの戦闘を行っている。

 それが、艦隊決戦でなかっただけだ。

 太平洋戦争の決着は、艦船同士の一騎打ちなどでは到底つけられなかった。

 そのことを踏まえると「生来の目的を果たさなかった」という意味も、彼の慣用句には込めておくべきであろう。

 

・・・・・・・・・

 

 SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の予算が大幅に削減される、との報道があった。

 この仕掛けは有事の際に、住民の避難誘導の方針を立てるために開発されたものだと聞いている。

 しかし、ご存知のように福島原発事故の際には、放射線拡散計算の重要なINPUT情報である放射源情報が得られなかったため、予報が出せず、結果、何の役にも立たなかった現代の「無用の長物」である。

 重要情報が得られなかった理由は、地震津波のため停電が発生し、観測装置に電力が供給されなかったため、放射線量が測定出来なくなったから。

 

 これ・・・、おかしくないか?

 電気が無ければ観測装置が動かないことは子供でも分かりそうなことだ。

 これは、天気予報で例えれば、雨に当たったら動かない雨量計を使って雨の予測をしようとしているように聞こえる。

 SPEEDIには、これまで110億円を超える予算が投入されているとのこと。

 関係者は、この莫大な資金を使って、これまで一体何を作っていたのだろうか。

 

 「電力供給が停止することは想定外だった」は、言い訳にもならない。

 このような言い分が通用するのは文系だけだ。

 理系脳を持っていれば、設計者はシステム開発を行う際、その正常稼働に当たっての前提条件を設定する。

 システムが所定の性能・機能を発揮する動作環境の前提だ。

 

 観測用の端末を何台、何処に設置し、その内の何%が稼働すれば、どの程度の精度で放射線量とその分布が測定出来るのか、時間経過後の拡散度合いがどのように変化するのか、その有効性評価がどの程度確実であるのか。

 例えば、計測装置を製造する際に「商用電源100V±0.5%、気温0°〜50°の環境下で定常動作します」というように。

 これを予め決めて発注者に提示しておかないと、システム開発を行う側(SIer)は、発注自体がもらえない。 

 どのようなものが出来上がるのか分からないものに、人(役所・国)はお金を出したりしない。

 

 100歩譲って、原発事故が発生する中で、周辺地域の電力供給が通常通り行われているという前提・想定を認めたとして、その状態(SPEEDIが動作する状況)とはどのようなものなのだろうか。

 事故は、天変地異によってではなく、原子炉の暴走によって発生する想定であったのか?

 チェルノブイリ事故のようにヒューマンエラーを想定していたのであろうか?

 それとも、原発が事故を起こすシチュエーションを設定せずに、放射線拡散シミュレーションをやろうとしていたのだろうか。

 もしそうであれば、そのようなこと(開発目的)に意味があるのか?

 

 不明だ・・・。

 当事者達の事故想定が甘い、いや、「根拠レス」と言うべきだろう。

 どこから、どこまでもいい加減なプラントと関連設備である。

 このシステムを次回、稼働させる時の想定は、今、関係者はどう設定しているのか。

 私達は、それをしっかりと把握しておくことが重要だと思う。

 

 何の役にも立たなかったSPEEDIの存在は「税金の無駄使い」以前に、「無用」と「有用」の区別がつかない役人や政治家が存在し、その人たちが原子力行政の中枢を担っている、と言うことを示しているのかも知れない。

 これは相当に恐ろしいことだ。

 

 そんなもの、作ってどうするの・・・?

  これに明快に答えられない建造物は、遺跡を別にして、将来相当の確率で「無用」になる可能性がある、ということだ。

 

・30年経っても完成しない巨大ダム

・開けても閉めても文句を言われる水門

・牛が歩く田舎の自動車専用道路

・1日2万台程度しか車が通行しない、海にかかる巨大連絡橋

・ビジネスマンが行き来しない地方の高速鉄道と空港

・大深々度を超特急と並走する超高速鉄道

・リサイクルできないウラン燃料リサイクル施設

プルトニウムウランに変換出来ない高速増殖炉

 まだ、ありそうだ・・・

 それと、これら「長物」の建設費は、一体誰が負担するのだろうか。

 「受益者負担」なのだろうが、誰が ”利益” を享受するのだろうか・・・