オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

盛者必衰なのか

 オーディオ機器の老舗、パイオニアがAV機器部門を売却・整理するとの記事が流れた。

 私も学生の頃、パイオニアの音響機器(所謂ステレオのシステムコンポーネント)を所有していた。当時は、ソニーウォークマンはまだ存在せず、音楽は自宅で聞くのが当たり前だった。

 当時、音響機器は、ステレオやコンポなどと呼んでいたが、主流はアンプ、チューナー、レコードプレーヤー、カセットレコーダー(テープ式のやつ)、スピーカー等、役割別に分離した形式のものだった。

 この手の機器の汎用・普及品の主流を占めていたのがパイオニア。

 山水(SANSUI)はその中の「アンプリファイアー」の高級ブランドだった。山水のアンプは当時の私達にとってあこがれでもあった。

 私が所有したのは「PROJECT7000」。中森明菜がCMをやっていた。

 

 この「ステレオ」という市場は、80年代になるとソニーの発売したWALKMANによって席巻された。

 また、その後市場投入された携帯型CDプレーヤー(これもソニー)によって、音楽は家庭から持ち出されることが当たり前となり、いつでも、どこでも聞けるようになっただけでなく、スリム、コンパクトなハードウェアで再生されるようになる。

 人々は、巨大なスピーカーからの音声ではなく、ヘッドホンやイヤフォンで音楽を聴くスタイルに抵抗感を持つことは無くなっていった。

 「ステレオ視聴」=「高級な趣味」では無くなった。

 80年代、Light Sizing(賢明な小型化)は、コンピュータの世界だけでなく、ここでも起きていた。

 

 音楽を聴くスタイルに一大変革をもたらしたソニーは、その後、アップルのiPadにより市場を奪われる。

 今や、家庭の応接間(死語?)やリビングに巨大なオーディオセットを置く人は絶滅種となったか、あるいは、タモリのように地下に専用スタジオを構えるような一部の有名人・セレブリティに限られるようになった。

 「音楽は持ち運ぶ」という生活スタイルの出現により、「ゆったり落ち着いて書斎や居間で音楽を鑑賞するためのハードウェアの要求」という、既存の価値観と市場が一気に消滅するというパラダイムシフトが起きた。

 これを機に、パイオニアは自らの存在を問い直すことを余儀なくされた。

 その後、パイオニアは、赤字を連続しリストラに追われた。

 そして、今、ついにこれまで築いてきた貴重なブランドを売却せざるを得なくなった。

 今後は、クラウドを利用したカーナビシステムに注力していくとのことである。

 しかし、この新市場にあっても、永続的に現有技術の優位性が継続するとは限らず、将来が長期にわたり安泰な訳ではないだろう。

 パイオニアはカーナビの次にくるものとして、将来、どのような技術・市場をターゲットにするのであろうか。

 交通システム(これは一種の社会インフラでもある)を支援するIT機器に特化していくのであろうか…

 

インテルモトローラ

IBMコンパック

・アップルとマイクロソフト、そしてグーグル

・ドコモとソフトバンク

・巨大書店とamazon

・ファミレスと牛丼屋とマック

SNSと新聞社

・公立高校と有名私立、そして予備校

 

 過去を振り返っても、技術の先攻、ビジネスモデルの構築、市場の占有を巡る競争は激烈だ。

 日経は、パイオニアを「レーザディスクやプラズマディスプレイの技術開発に先攻したにもかかわらず、それに胡座をかき、技術革新の波や市場構造の変化を捕まえられなかった」と厳しく評した。

 一理ある。

 旧態とした発信源である日経がエラッそうに言うこともないが…

 ソニーにも同じ批評ができるかもしれない。アップルも…

 

 市場淘汰というよりも、市場そのものが変わってしまったのだから、既存品が淘汰されるのはやむを得ない。

 盛者必衰ということか…

 

 でも、やはり寂しい。

 若い人たちには、分かってもらえなくてもいい…