イノベーターの未来
IBM(International Bussiness Machines Corp.)は、1911年CTRという名称で設立された事務機器メーカーだった。
当時の主力は、PCS(Punch Card System:パンチカードシステム)という統計処理を行う機械だった。このパンチカードという仕組みは、その後、コンピューターシステムの重要な入力装置であるカードリーダー装置に受け継がれている。
コンピューターシステムの黎明期、紙カードの穿孔数が横80カラムであったこと、VDTが横80文字表示であった事などは、PCSのアーキティクチャに由来している。
IBMは第2次大戦後、事業リスクが極めて高いコンピュータビジネスに身を投じた。
そして、1970年代を迎える頃には「コンピューターの巨人」「ビッグ・ブルー」と呼ばれるようにまで成長した。全盛期、全世界のメインフレームの80%はIBM製であると言われた。
メインフレームは「汎用コンピューター」と解釈されているが、コンピューターの利用を「汎用」的にしたのは、IBMだ。システム360がそれを実現した。
現在では当たり前である「プログラムを書く」という行為を商用システムで実現させたのはIBMである。「互換性」という概念もシステム360で現出した。
仮想記憶装置を用いたジョブの多重処理を実現したMVSというOSも同様。
現在ではフツーになった”バーチャルマシン”も80年代から存在する。
プログラミング言語である「FORTRAN」「PL/Ⅰ」もIBMの発明。「SQL」も。
通信制御方式のBSC(ベーシック手順)もまたそう。
IBMは優れたビジネスモデルも創出している。
高価なコンピューターシステムをレンタルで販売すること、アーキティクチャの多くを特許で囲い込みパテント収入を確保すること、ソフトウェアとハードウェアを別々に販売すること、コンピューターの使用量に従って課金すること等々。
そのIBMにあっても、パーソナルコンピューターとそのOSについては、完全に出遅れていた。その後、同社の存在・存続を脅かす「ダウンサイジング」の潮流をIBMは読み切れてはいなかった。
とは言え、現在の全てのPCが搭載している「BIOS」の中身はIBMが作ったものだ。IBM PCアーキティクチャは”健在”である。
IBMは、90年代になるとLotusやTivoli等、多くのソフトウェア会社を買収した。しかし、それらのM&Aは成功したとは言えなかったようだ。
2000年代には、ハードディスク事業を日立に、PC/サーバー事業をレノボに売却する。
今のIBMは、コンピューター製造会社ではない。一方、ソフトウェア会社とも異なる。
SIerであることは紛れもないが、一方で、コンサルティングファームにも見える。
つい、先日、IBMは半導体事業をGLOBALFOUNDRIESに売却すると発表した。それも、15億ドルを支払ってまで…
まるで「投げ売り」である。
IBMは、随分前からジョセフソン素子の研究を行ってきている。
果たして、この研究内容も事業と同時に捨ててしまうのであろうか。
それとも、すでに研究は断念していたのであろうか。
ジョセフソン素子ではなく、量子コンピューターの方が現実的なのか…。少し気になる。
IBMは、この先、どこにいくのか。
同社のスーパーコンピューター開発は健在であり、今後、人工知能の研究にはさらに比重をかけると発言している。
コンピューターシステムの基幹技術を生み出した同社は、21世紀にあって、私達にどのようなイノベーションを見せてくれるのか。
IBMの転身に注目したい。
同社は事業形態の変革により、この先、異なる社名を持つ事になるかも知れない。
しかし、如何なる名称を持とうとも、それは既に「永遠」のものになっていることは間違いない。