価値あるもの
朝から彼女のオーダーで車を走らせた。行き先は、金沢八景の某所。
「朝一から車で行け、って珍しいね。何しにいくの?」
「シイタケ・・・」
「椎茸?」
「そう、シイタケ」
「金沢でないと手に入らないの?」
「うん」
車で小1時間。着いたのはビニールハウスのある普通に見える民家。
奥に入ると「直売所」と書いた簡単な看板があった。そこには女性が2人いるだけ。とても狭いスペースにシイタケはあった。
彼女は、店先でその女性と色々話しながら目的のものを購入した。
袋一杯の椎茸。
彼女は販売所をすぐ後にした。
「これのためにわざわざ?」
「うん」
「特別なシイタケ?」
「ある意味でね・・・」
恐らく、何かあるのだろう。このキノコには・・・
家に帰るとすぐ彼女は言った。
「次、行くよ。寒川のリサイクルショップ」
「了解」
先日、彼女から古くなった乾燥機をリサイクルショップに持っていくのを手伝うようお願いされていた。
何でも乾燥機は、通常の廃品回収では引き取ってくれないとのこと。
普段、家電店で新しいモノを購入すると、その代替に古い方はリサイクル代を支払うことによって引き取ってもらうものであるが、今回、彼女は乾燥機をamazonで買ったそうだ。それも、現行と全く同じ機種のものを・・
そうなると、下取りは”ない”ので、自分で処理するしかない。彼女は色々調べた結果、寒川のリサイクルショップを見つけたようだ。法定の下取り代で引き取ってくれるらしい。
何だか、とても面倒なことを彼女はやっているのであるが、どうしても現行機と同等の乾燥機が欲しくて探していた所、たまたまamazonで相応のもの見つけたので購入したとのこと。
彼女自身が言っている。「私、乾燥機フェチだから・・・」
そう、彼女は洗濯機と乾燥機が大好きだ。
今は、洗濯機と乾燥機は一体となっているそうだ。ドラム型の洗濯機を購入すれば、乾燥機能は備わっているとのこと。
でも、彼女はこの乾燥機をかれこれ10年以上使っている。何年か前には修理もしたそうだ。
掃除は嫌いであるようだが、洗濯は大好きだと本人は言っている。理由は「達成感がある」から。
私と彼女は、UP!のリアシートにボロになった乾燥機を積み、寒川まで走った。
行く途中で、「日本一たい焼き」という看板が目に入った。寒川神社方面に向かう道の途中だ。
「何だ?あれ」
「たい焼き。美味しいよ」
「大層な構えして、たい焼き?」
「そう、たい焼き。気になる?」
「なる」
「帰り寄ってみたら?」
「そうする」
リサイクルショップで無事乾燥機を引き取ってもらった後、帰り道で「たい焼き」SHOPに寄ってみた。
かなり広い駐車場を有しているにもかかわらず、売っているのは「たい焼き」のみ。こんなことがあり得るのか?
私の疑問をよそに、駐車場には入れ替わり立ち替わり車が入ってきた。似つかわしくないと思っていたが、その駐車場は必要性を十分に満たしていた。
驚いた。
世の中、「たい焼き」だけでこのようなビジネスが成り立つのか?
帰宅後、シイタケ、たい焼きを食した。
とても、美味しかった。
シイタケは、焼いて、塩あるいは醤油をかけるだけで信じられない味を出した。
香りが良い・・・
歯ごたえが何とも言えない・・・
「やはり、美味しいね」
そう言うと彼女は、
「分かるんだ。ちょっと意外・・・」
と、言った。
食は彼女の専門分野だ。何を思っているのかは計り知れないが、口を挟まなくて正解だった。たかがキノコ。されど、キノコ。それもシイタケ。
恐るべし・・・
たい焼きは、皮がパリパリ。あんこたっぷり。しっぽの先の先まであんこが入っていた。
味はフツーだ。しかし、美味い。
皮のパリパリも良い。
小豆とカスタードを買ってきたのであるが、カスタードは全てBOYが食べてしまった。私は食する機会が無かった。彼は甚く気に入ったようだ。
恐るべし・・・、たい焼き。
今、新しい乾燥機は元気良く廻っている。結構な音を立てながら。
彼女は「もう、この手の乾燥機は入手できないか、と思ってた。でも、あって良かった!」
と、ご機嫌だ。
「やっぱり、これがあると洗濯物の乾き方が別次元」
と言っていた。
今では、最新とは言えないハードウェアであるが、彼女にとっては価値あるものらしい。
私は、一応、「ドラム式の洗濯機買えば?」と進言している。
しかし、ものの価値判断をするのは彼女。彼女にとってはこれがベストらしい。
ならば、それでいい。
椎茸、乾燥機、・・・そして、たい焼き。
何でも無いもの。
でも、それぞれ想いが込められた「価値あるもの」
何がいいか、なんて意外と分からないものだ。