最終戦争
徹底的な破壊と殺戮の一日が終わろうとしていた。
「明、おれが君の戦いを止めた意味が分かったかい?」
不動明は言い返す言葉が無かった。飛鳥了は言葉を続けた。そして、明に残酷な事実を突きつけた。
「君が全力をあげて戦っても、世界中がこのありさまだ。君は身を潜めて見守るのだ。人間の必死の戦いぶりを。その結果、人間は滅びるだろう。一人残らず死に絶える。君の戦いはそれからだ」
「俺だけが生き残っても意味は無い。人間を護るためにこの道を選んだんだ。それに人間を助けることは不可能ではない」
「君、一人でやつらを全滅させる手段があるというのか?」
「一人じゃない」
「えっ!」
「デビルマンは俺一人じゃない。やつらが、デーモン一族が人間に恐怖を与えるために行った無差別合体が多くのデビルマンを生んだ」
「そうか・・・。あり得ることだ・・・」
「了、俺は世界中からデビルマンをかき集め、デビルマン軍団を作る。デビルマン軍団がデーモンを打ち破るのだ」
「フフ・・・。まるで黙示録の世界だ」
「黙示録?」
「神の意志により氷の世界に閉じ込められし悪魔神サタン。永劫の時を経て蘇り、悪魔軍団を率いて天空より災いをなす。・・・神の軍団、これを迎え撃つ」
「その神の軍団とは」
「何を表すのかは分からない・・・。もしかすると、それがデビルマン軍団かも知れない。あるいは、全く別の何かかも・・・」
明は拳を握りしめた。
「俺はそう信じて戦う」
了は遠くを見るように言った。
「地球上の全ての者が善と悪に別れて戦う、これをアーマゲドン、最終戦争という」
「了、勝利はどちらだ?」
「・・・」
了は答えなかった。
その後、政府は、人間社会の中に紛れ込んでいる悪魔達をあぶり出すために悪魔特別捜査隊を創設した。
了はそれを嘲笑った。
デーモンは既に人間社会を引き上げてしまっていた。人間は自分で自分の首をしめたのだ。
全てが彼の思い通りに、計画通りに進行していた。
悪魔の攻撃を恐れた人間達は、疑心暗鬼に陥り、お互いを殺し合った。
明には、確たる根拠も無く相手を決めては惨殺を繰り返す人間達が悪魔に見えた。
明は人間を護るためにデーモンと合体し悪魔の体を手に入れた。そして、悪魔と死闘を繰り返した。しかし、明が護ろうとした人間達の心は次第に悪魔化して行った。
人間の敵は、悪魔では無く人間であった。
それは、全人類を裏切ることに等しかった。
了の裏切りにより、明は愛する人、大切な人達を惨殺される。
明には、もう護るべきものがなくなっていた。
明は、彼らの自滅を見ているほか無かった。
20年が経った。
了が予言した通り、人間は死滅していた。
無限の荒野と化した中国大陸にデビルマン軍団が集結した。
天空の彼方から、光の塊となった一団が舞い降りようとしていた。
その先頭には、飛鳥了がいた。
「明、新しい世界で生きてくれ。私たちと共に」
神の軍団とデビルマン軍団が対峙した。
「大魔神サタン・・・。俺は貴様と戦わずにはいられない」
黙示録の世界が始まろうとしていた・・・
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永井豪の傑作、「デビルマン」には、人間社会に巣食う悪魔族をあぶり出そうと、魔女狩りを行う愚かな者達の蛮行がグロテスクに描かれている。
「人間と悪魔の見分けがつくものか!」
飛鳥了の痛烈な批判である。
全世界で、宗教の名を騙る野蛮人たちが殺戮を繰り返している。それは、まるで「デビルマン」に見る魔女狩りの様相だ。
嘘のような話が現実になりつつある。
テロを防止するには、彼らがことを起こす前に見つけ出さねばならない。しかし、彼らは人間社会にとけ込んでしまっている。彼らを見つけようとする行為は、中世の魔女狩りと同じ悲劇を生み出す可能性を孕んでいる。
普段の生活の中から、特殊な思想をもった者だけをあぶり出すことは不可能だ。
「デビルマン」には、著名な生物学者が「人間の邪な願望が自らの肉体を悪魔化させる」というとんでもない学説を発表したため、社会が大混乱に陥いるという場面がある。
しかし、聖戦を大義名分に人殺しを行う彼らを見ていると、この話がとてもフィクションとは思えなくなるときがある。
彼らは時に神の名を唱えるが、その実態は、まさしく悪魔の所行そのものだ。
アーマゲドン(Armageddon)が到来するのであれば、それは私達の未来を示唆している。