オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

労働者派遣法の意味すること(2)

(つづき)

 

 西郷は、「ヒドラ」に戻り、直接の上司であるテリー近藤との面接を行っていた。

「ボス。派遣先から切られた理由は何ですか?私は何か不都合を起こしたでしょうか?或は、『ろうどうきじゅん…何とか』との面談で会社規則に反するような発言をしたのでしょうか」

「デューク、君に不都合の責任は無い。」

「では、何故?」

「当局は、君の遂行している業務内容は、『労働者派遣法に定める26業務に相当しない』との判断だそうだ。よって、3年以上の継続した派遣契約は彼の企業とは出来ない、との指達だ」

「Why Japanese Pepole …! 」

「現実の業務はそうなのであるが、社内システムの運用支援業務に限った場合、労働者派遣法の専門26業務にそのような定義は存在しない」

「えっ?」

「我社が請け負った派遣業務の主体は、『OAインストラクション』だ。君の担当業務、つまり派遣先から指示される業務内容の90%以上はこれが占有しなくてはならない」

「そのような制限は聞いていませんでしたが」

「すまない。当時の担当者の認識が甘かったのかもしれない」

「労働基準監督…、の方が私の具体的な担当業務を詳細に聞いてきたのは、私がルールに合致しない形で派遣されているかもしれないことを確認するためでしょうか?」

「恐らく、そうだろう」

「何故、3年間はOKなのに、それ以上はだめなのでしょうか」

「この国の労働法制は、企業の完全雇用を基本としている。高度に専門性が高い業務以外は、正社員としての雇用確保が原則なんだ。だから、3年間もあれば、人材育成により如何なる業務であっても余人をあてがうことは可能な筈だ、という考え方だ」

「26業種だけが、余人をもって替え難いという、国の判断ですか…」

「そういうことになる。君のヘルプデスク業務は『OAインストラクション』には該当しない、というのが当局の判断だ。」

「そうですか…。社員への技術的アドバイスの件を確認したのはそのためだったのか。うかつでした。」

「君のせいではない。派遣開始当初はその業務が中心だったが、社員のITリテラシー向上により、その必要性が薄らいでしまったんだ。」

「私は、今後どうすればよいのでしょう」

「現有スキルを活用出来る他の派遣先を探させてもらう。しばらく、休養してくれ」

「分かりました…」

 デュークは ”Yes” とは言ったものの、納得出来ない部分があった。

 

「26業務が余人をもって替え難い高度な専門性を有しているとは到底思えない…」

 日本とは不思議な国だ…

 

・・・・・・・・

 

 労働者派遣法施行令第4条で定められた26業務

1.ソフトウェア開発

2.機械設計

3.放送機器等操作

4.放送番組等演出

5.事務用機器操作

6.通訳・翻訳・速記

7.秘書

8.ファイリング

9.調査

10.財務処理

11.取引文書作成

12.デモンストレーション

13.添乗

14.建築物清掃

15.建築設備運転・点検・整備

16.案内・受付・駐車場管理等

17.研究開発

18.事業の実施体制等の企画・立案

19.書籍等の制作・編集

20.広告デザイン

21.インテリアコーディネーター

22.アナウンサー

23.OAインストラクション

24.テレマーケティングの営業

25.セールスエンジニアリングの営業

26.放送番組等における大道具・小道具

 

 昭和の香りが漂う業務が満載だ。

 上記の業務のみが「永久派遣」を認められているという現実。

 

「生活が…」泣き崩れる傍聴者 派遣法改正案 衆院通過へ

 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015061902000244.html

 

 この方が主張していることは「既得権を守れ」だ。

 この方、56歳になるまで、一体、26業務のどれに就いていたのだろうか。

 これまで、それ以外の仕事で正規雇用されることを考えたことはあるのだろうか。それとも、一般に束縛の小さい派遣業務の就労形態が気に入っていたのか…

 

 経済・社会情勢の趨勢により、業務の専門性が変化することはこれまでもあった。

 例えば、「OA」とは「オフィス・オートメーション」のことであるが、こんな言葉、「死語」だ。だから、それに関連する職業も今や専門性が高い、と言い切れない。

 このような職業に固執して永続的な雇用確保を求めても、現在では無理筋であろう。

 今回の労働者派遣法改正は、「完全雇用」を前提とするならば、現行法制の矛盾・不公平を是正する ”改正案” である。連合や民主党の主張する ”改悪” ではない。

 問題の本質は、「3年間」という時間でもなければ「26業務」の内容でもない。

 「何故、企業側は派遣を必要とするのか」

 「何故、正社員として雇用しないのか/されようとしないのか」

 だ。

 働き手から見た場合、柔軟な就労形態への要求が存在する限り、この問題は諸刃の刃として、立ちふさがり続けるだろう。

 つまり、どっちもどっちなのだ…