極限対応による最大不幸
新幹線のぞみ号における焼身自殺と、その結果としての乗客殺傷事件は、関係者と一般市民に大きな衝撃を与えた。
政府は早速JR各社の関係者を集めて、安全対策の要請をしたとのこと。
一部の報道には、新幹線にスプリンクラーが搭載されていないことの不備を指摘するような意見もあったようであるが、現実問題として車内で焼身自殺を図ろうとする輩から、車台・乗客を防衛する手段など、誰も考えてはいないだろう。
幾らなんでもそれは無理筋だと思う。
ここは、日本だ。
日本の社会インフラは、平均的日本人の常識的行動に裏打ちされて設計・構築されている。IS(Islamic State)の存在など、想定していないのだ。
「2020年東京オリンピックに向けて、世界の人々が安心して訪日してもらえる安全な社会システムを構築する必要がある」旨の発言が関係者から発せられているようである。
…私は何だか嫌な予感がしている。
具体案の一つとして、早くも新幹線向けの金属探知機の設置を具申する人がいる。欧州の一部では導入している国があるとか…。
本当…?何処の国だ?
少なくとも、私はドイツではそのようなもの見なかった。一体どこの国でそのような仰々しいものを設置していると言うのか。
それに、金属探知機でポリタンクやガソリンの存在を検知できるとでも言うのか…
大都市間500Kmを、1000人を乗せた弾丸列車が5分間隔で走行し、1日に延べ40万人近くを輸送している。その終端となる東京・新大阪駅の喧噪・超過密は、日本人の誰もが見て知っている。
あそこに、空港のようなボディチェックシステムを置く…だと?
・・・
空港では、20分前の搭乗手続き完了を指示しているのは承知の通り。
そんなこと、新幹線ではできっこない、と一般ピープルの私は考える。
そして、何よりもそんなこと「無駄」だ。
一体、どれほどのリスクを排除するために、そのような大袈裟なことをする必要があると言うのか。
それこそ、ごくごく少数の精神破綻者や異常行動者、テロリストの存在可能性から身を護るために、システムの利便性の最大項を喪失する愚行に走ろうと言うのか。
このような安全対策方針の無意味さの点では、既にバカバカしい事例がいくつか存在する。
・「オレオレ詐欺」防止やマフィアのマネーロンダリング対策に銘打った、銀行の口座間取引の限度額設定
・科学的根拠が希薄な、電車内における心臓ペースメーカー装着者の安全確保のための携帯電話電源切断指示
・特定の方への注意喚起のための、ハイブリッドカーへの「人口エンジン音発生装置」装着命令
・無差別大量殺人防止のための街中からのゴミ箱撤去
これは、リスク対策として僅少の効果が期待出来るだけであって、効率性の面では全くもって無意味な行動・対策であると思っている。利便性を失うこと甚だしい。
一体、これらの施策によって全国民の何%が救済されているのであろうか。
多くの善良なる市民から見れば、極限状況を前提に日常の最大多数の利益を喪失しているようにも見える。
いくら何でも他に方法があるんじゃないか、と思うのだ。
監視によって、テロは防げない。
日本の安全神話を堅持するために金属探知機を設置するのであれば、果たしてそれは新幹線だけで良いのか?
外国からの訪問者は、移動に新幹線だけを使うともでも言うのか?
朝夕のラッシュ時に山手線で焼身自殺を図ることは不可能なのか?
つい先日、京浜東北線で包丁を振り回した異常者がいたが、あれは「例外」か?(優先座席でのケータイではなくタブレット端末使用が事件の発端)
私は「安全」を名目に、利便性を著しく損なう仕掛けを導入することには抵抗感がある。
そして、そんな方策には、限界がある。
効果は限定的であり、失う利便性の方が遥かに大きい。
新幹線や他の交通機関、街中での無差別殺人には、各個人の、ひいては社会全体の安全意識でもって対処するしか無い、と思う。
それがベターであると確信している。
性悪説にもとづいて社会システムを作ることは日本に似つかわしくない。