オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

サイタサイタ コスモスサイタ

 某知事の「女の子には、sin、cos、tanではなく、花の名前を教えた方が人生の選択肢が広がる」との発言は、あっという間に日本中を駆け巡った。

 当然、彼は今、強い批判を受けている。

 恐らく、彼はこの発言により、数学関係者、設計者(デザイナー)、エンジニアだけでなく、正三角形や二等辺三角形等、全ての三角形の皆さんから嫌われたことだろう。

 加えて、三角形一族の親戚の台形や、平行四辺形からも愛想をつかされたと推測する。

 この発言を涼しい顔で見ていられるのは、直接の関係が薄いと思われる、円・楕円一族の皆さんだけだろう。

 2次元の世界で、三角形から嫌われては生きてはいけない。三角形は全ての図形の基本形だ。某知事の、あのどうでもよい顔だって、複数の三角形に分割することが可能なのだ。

 

 しかし、彼の言うことにも一理ある・・・。

 sin、cos、tanって、確かに日常生活ではほぼ使わない。

 キャベツを切るのに、三角関数を使う人はあまりいないと思う。歩いて道を曲がる時も同様だ。

 「サイタサイタ、コスモスサイタ」

 sin(A+B) = sinAcosB + cosAsinB (加法定理)はそうやって暗記した。 

 しかし、電卓が存在する現在、この公式を使うことはまずない。

 

 この間、頭のすぐ上をF-16が大音響をたてて飛び去った。

 見上げたときのF-16は、私の手のひらより少し小さいくらいの大きさだった(に見えた)。

 一体、どれくらいの高度で飛ぶと、こんなに近くに見えるのだろうか、とその時疑問に思った。

 

 私とF-16の距離は実際には、どれくらいだったのか?

 これは、三角関数を使えば計算出来る。

 F−16の全長は10m。私の腕の長さは0.7m。手のひらより少し小さい程度とは0.15mくらい、と考えれば良い。

 求めたいF-16との距離をxとすると、10/x=sinθ

 θは、tanθ=0.15/0.7から、0.211(RAD:ラジアン)と計算出来る。

 sin(0.211)=0.2095、であるから、X=10÷0.2095=47.73m

 となる。

 もっと、単純に計算するなら、

 0.15/0.7=10/X としても良い。

 この場合は、46.67m。

 横に長〜い三角形の底辺を図るか斜辺を図るかの違いだ。そんなに長さは違わない。

 およそ50〜60m位の距離となるか・・・

 幾らなんでも、こんな近い距離ではないと思う。実際は、100mくらいだったのだろうか。

 この空想、三角関数を使わないとできない。

 もし、知らなければ「すっごい、近くをF-16が飛んだ!」としか表現出来ないのだ。

 このように、私にとっては、三角関数はとても役に立っているが、ひょっとしたら、他の人にとってはどうでも良いことかも知れぬ。

 某知事は「測量以外には使えないよ」と言いたかったのかも知れないが、それにしても「女の子には」は余計だろう。

 物差しを使うのに、男女は関係ない。

 

 日常生活に使わない、と言うのであれば、微積分は三角関数の比では無いだろう。

 ニュートンライプニッツには申し訳ないが、これは事実だ。

 名探偵コナン天国へのカウントダウン」で、灰原さんがニュートン運動方程式を使って、探偵団の子供達を救うシーンがあるが、あれは特別…だ。

 しかし、「駆使する訳では無い」というのと「知識として不要」というのは意味が違うと思う。

 やっぱり、三角関数くらいは知っておくべき「常識」だろう。

 某知事の主張は、短絡的不要論だと思う。 

 

 文科省は、今後、大学の人文系学部を廃止させるつもりらしい。

 国立大学は、文学部(等)を廃止し「社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」そうだ。

 「社会的要請」など、10年も経てば自ずと変化するのに、教育の基本方針を決定する役所の連中が、そんな近視眼的な発想で良いのだろうか…

 

 サイン、コサイン、タンジェントは、1万年経っても間違いなく使える。

 シェークスピアやトルストイは、何万年経っても愛読され続けると思う。

 一方、javaのプログラミングは、あと何年間通用するのだろうか。

 Androidに替わるOSだって、いずれ出てくる。

 

 某知事も元役人だそうだ。

 自称「エリート」達の考えていることは、私には理解出来ない…