オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

詐称もシャレのうち

 もう随分と前にTVで見たお話。

 志村けんの番組で、彼が研ナオコとショートコント(寸劇)をやる場面があった。

 研ナオコは、愛する旦那と今晩こそ子づくりをしようと、スタミナ満点の料理を作って彼の帰りを待っていた。

 それを知ってか知らずか、志村は夜遅くに酔っぱらって帰宅する。

 こんな時間まで何処をほっつき歩いていたのか尋問するナオコ。

 それをうざったいと振り払う志村。

 志村は思わず愚痴を言う。

「報道関係の仕事はな、付き合いとか色々とあるんだよ!分かるだろ、それくらい!」

 ナオコは、志村の顔に最大限接近し言い放つ。

「新聞配達のどこが報道関係の仕事じゃ!」

 会場は大爆笑。

 私もひっくり返って笑った。腑が捩れる…

 

 彼は突然、私に言った。

「ゆずさん、私、今の仕事止めて田舎に帰ることにしました。」

「えっ!また何で…」

「実家の仕事を継ぐことになったんです。これまで、兄貴(長男)がその筈だったんですが、事情が変わって」

「ふ〜ん、そうなんだ…。実家の事業であるなら仕方ないか…」

「でも、何か冴えないんですよね。」

「何で?」

事業って言ったって、実家の家業はガス屋です。」

「お米とか醤油とかも配達するやつか…」

「そお」

「いいじゃん、別に。地元密着の仕事だよ。大事なことだ」

「でも、東京で仕事している方がいいなぁ」

「…」

「ゆずさん、何かカッコいい名目ありませんかね?」

「家業を継ぐ?」

「そお!」

「…。実家のエネルギー事業を継ぐことになったってのはどうだ」

「ガスですよ?」

「ガスはエネルギーだ」

「そうですね!」

 

 彼は実家のある岡山に帰って行った。

 しかし、私は2年後、彼と友人の結婚披露宴で再会した。

 彼曰く。

「いや〜、ゆずさん、エネルギーは流行んないですね!」

 本当に楽しい人だ。今は、某上場企業の人事部にいる。

 

 経歴詐称したとかで、ショーンだか、マクドナルドだか、川上だとか言う人が世間から責められているらしい。

 MBAとかパリの何とかとか、コンサルタントとか、整形とか、色んなことをやっていたとかいないとか…ハーフなのかクォーターなのか、いや熊本の田舎者だとか…、一体何が本当なのだ?

 

 私もたまには「報道ステーション」で彼のことは見ていた。

 それまでは随分と派手な経歴だな、とは思っていたが、その内実は、ほとんど先ほどの「報道関係」「エネルギー事業」のネタとレベルは変わらないらしい。

 何だか、私は笑ってしまった。

 いや、彼はちょっと経歴を盛っただけの話だよね。私も20代の頃は先に触れたようなジョークは言っていたので分かる。

 これが、番組を全て降板するほどのことなのかね…

 これまでも、コメンテーターの顔にカメラが向く度、プロフィールが表示されるのは見ていて正直、ウザかった。

 「…が趣味」「…が得意」「…に定評がある」

 これからは、川上氏が映る度に、これまでの嘘の華々しい経歴が表示されるとともに、「これらは少し盛っています」というスーパーが挿入されるのだろうか…

 

 この騒動の背景に、番組提供側、視聴者に一種のブランド信仰があったことは否定できまい。

 そういう私も、何だか、ちょっと自分自身が恥ずかしく思ってしまった。

 「MBAでハーフで男前かぁ。羨ましい〜」

 正直そう思っていた自分が馬鹿なのだ。

 私は彼のことをそんなに悪くは思っていない。私自身が俗物なのだ。

 

 私はそれよりも、自分の芸名(本名含む)をアルファベットで書いて見せて、世界に通用する呼び名、あるいは自分は日本人ではなく外国籍人だと言わんばかりの顕示をしているミュージシャンの方が見ていて恥ずかしい。

 所詮、”TARO” と書いても日本人は日本人なのだ。

 「太郎」でいいだろう。

 それとも、彼らは、自分の真の存在を認めたくないのか… 

 日本人ではなく、外国人になりたいのだろうか?

 

 であれば、日本のブランド信仰も大したものである。

 彼と遜色無いではないか…