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オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

若冲が大好きな日本人

 日曜日(5/15)に「若冲展」に行ってきた。

 連日、凄い人出で会場が混雑を極めていることは知っていた。平日でも2時間待ちは当然と噂されていた。

 しかし、どうしても見てみたかったので、彼女を誘ってみたら「いいよ」との返事。

 彼女は若冲のことは全く知らない(現代画家だと思っていたらしい)。

 しかし、どうやら友人などから話を聞いて興味を持っていたようだった。

 私達は、美術館での待ち行列を覚悟して、朝一番で出発した。

 2人とも涼しい服装で水分も持参。2〜3時間の待ち行列を想定して完全武装の準備をした。

 上野に到着したのは9時過ぎ。開館は9時30分だ。

 美術館に到着すると、既に長い行列ができていた。

 チケットは前日に彼女がファミマで購入してくれている。

 直ちに行列最後尾に並ぶ。

 係員のプラカードによると、待ち時間は「240分」とのこと。

 「・・・」

 である。

 

 しかし、ともかく並ぶ…

 現地は大変な混雑であったが行動に迷うことはなかった。

 係員の方が

「入場券購入の方はこちらです…」

「既にチケットをお持ちの方はこちらに並んで下さい」

 と、丁寧にエスコートしてくれている。

 私達が並んだ後も、続々と人がやってくる。ほんの数分もすると、私達の後ろには驚くような行列ができていた。そして、その行き先は遥か彼方だ。

「一体、この行列、どこからどこまでいくんだ?」

 その日は熱い朝であったが、逆に背筋が寒くなった。

 

 列は延々と続く。

 どうやら、美術館の周りをとり囲んで、その先で折り返しているようだった。

 皆さん、私達と同様に覚悟の上の行列らしく、さまざまな準備をされていた。

 文庫本を持ち、日傘をさして並んでいるご夫人・紳士が多く目についた。タブレットを手にする人もいる。

 中には、Mac Book Airを手のひらに乗せて何やら入力しながら並ぶ人や、ビシッとスーツ・ネクタイを決めたビジネスマンらしき方がいた。着物姿のご夫人も数人いらっしゃった。

 年齢層は、まさにさまざま。決して中高年ばかりではない。外人さんもいた。

 ベビーカーに小さな子供を乗せ、ひたすら日光から守るように列に並ばれているママもいる。

 そもそも、若冲展が大変な人気で壮絶な混雑をしていることは知っていたが、それにしても、日曜の朝から、炎天下をかいくぐりこれだけの人達が行列を作るとは、やはり驚きだった。

 

 一方、現地には多くのスタッフが配置されていた。

「4列に並んで下さい。他の方の通行のための道を空けて下さい」

「待ち時間は長くなりますので途中での水分補給を欠かさないで下さい」

「気分が悪くなったら、最寄りのスタッフに声をかけて下さい。大丈夫でしょうか…?」

「並んでいる方々で交代して木陰で休憩をとるなど無理をしないで下さい」

「小さなお子様、ご高齢の方々への配慮をお願いします」

 多くのスタッフが、並んでいる途中で卒倒する人が無いよう、色々な声掛けをしてくれていた。

 行列の途中には給水所が設けられている。

 人々は行列を一時離れ、水を手にするとまたもとの行列に戻る。混乱は無い。

 また、行列は主催者側が意識していたのか不明であるが、木陰が続く通路沿いにエスコートされていた。だから直射日光を浴び続けた訳では無い。

 そして、これには私達も助けられたのであるが、現地スタッフが日傘を配っていた。この日傘は、美術館の入口で回収された。

 係員は、タイミングを見計らって注意喚起を行う。

「この先に自動販売機があります。必要であれば飲料水の購入をして下さい。列を離れる場合は、周りの人に声をかけて下さい」

 この行列は大変な苦行ではあったが、トラブルを出来る限り起こさない努力を主催者側がしてくれていることは理解出来た。

 また、それが如何にも日本らしい配慮だと感じた。

 結局、私達は3時間待って入場した。

 本来であれば、誰もこのような行列に好きで並ぶ人などいまい。

 それもこれも皆「若冲」が見たいからだ。良く我慢したものだ。

 そして、その甲斐はあった。

 

 圧巻だった。

 絵を見てこれほど圧倒されたのは初めてだ。会場では、ため息と感嘆の声があちこちから聞こえた。

 

 300年前の天才画師に多くの人が熱狂した。

 夢を見ているような1時間であった。

 そして、それにたどり着くまでの間の人々の想いや行動は、いかにも日本人らしかったような気がする。

 そう、私達は若冲が大好きな日本人なのだ。