ダイヤモンド印の価値
横須賀の海洋開発研究機構(JAMSTEC)で、「しんかい2000」のディスプレイ(実物)を見学したことがある。
自力で深々度まで潜水、浮上できる有人潜水調査船は世界でも極めて珍しく、ほんの数隻しか存在しないそうだ。現在、海洋国日本には、最新式の調査船「しんかい6500」が就航していている。
「しんかい」は、実物を見ると分かるが、極めて精巧・精緻な技術で製造されている。他社がおいそれとは真似ることの出来ない造船技術だ。
私は説明者に聞いた。
「これ、どこの会社が作っているんですか」
「名前は言えないんですが…」
「当然、独自設計ですよね」
「もちろん」
「どこでも作れる訳では無い」
「そうですね。特定のところでないと作れません」
「三菱(重工)だな…」
「まあ…」
こういう特殊な製造物に出くわすと「スリーダイヤ」の名を聞くことが多い気がする。そして、その事実が「三菱」という会社の凄さを物語る。
最新鋭の打撃巡洋艦やディーゼル式潜水艦。これも、恐らく三菱重工製だ。
多くの人達は、H-ⅡAロケットの打ち上げ映像を見たことがあると思う。そして、その絵を通じて「JAXA」そして「三菱重工」という文字(社名)を見ている。三菱=日本有数、あるいは国内最高のコンストラクター、とのイメージがあることは間違いない。
そして、それはイメージだけではない。事実、この会社にしか作れないものは数多く存在すると思う。私達がそれを知らないだけだ。
その会社から派生したのが「三菱自動車」。
設立は1970年。意外と新しい。
三菱自動車は、自動車生産数では国内ではマイナーの存在だ。しかし、ヒット作、名作も数多く輩出している。
・ギャランΣ、Λ
・パジェロ
・ランエボ
上記は自動車史にしっかりと刻まれた名車だ。
そして、”痛い”車もちゃんと作っている。
・デボネア
・スタリオン
・GTO
が代表格。これらは全くもって他の追随を許さない”痛さ”だった。
けなしているばかりではない。
スタリオンは親しい友人が所有していた。
実は、この車、一度、乗せてもらったことがある。
見かけはみっともない、どうしようもないスタイルをしているのであるが、乗ってみるとちゃんとしたスポーツカーであることが分かる。
メーター周りのデザインが凄く良い。カッコ良いのだ。着座位置も低く如何にもスポーツカーといった雰囲気を持っている。
そして、速い。バカッ速。
その分、燃費は悪い。
燃料タンクは100ℓ入ると友人が言っていた。
「本当か?」と思ったのであるが、この車はUSAでも販売していたのであり得ることだ。
GTOについては、以前、こき下ろしたことがあるが、デザイン自体は好きだ。カッコいいと思う。ただ、FFでスポーツカーもどきを作ってしまう性根が気に食わないだけ。
GTOのシャシーは「ギャラン」だ。「ギャラン」の車台を流用している限り、この車がFFであることは仕方の無いこと。いや、FFベースの車台で4WDスポーツカーを作った三菱を褒めてあげるべきかも知れない。スポーツカーとしての出自が悪いだけで、モノ自体は悪くない。
パジェロ、ランエボの偉大さについては、もはや説明の必要が無い。
これらが自動車技術史に残した功績は大きい。本当に素晴らしい車だった。
ちょっと前に日本経済新聞が「三菱重工、日立製作所が経営統合!!」という大スクープ記事を出したことがある。
日本を代表する2大企業の合併ということもあり、結構な話題となった。
結果として、この記事は「ガセ」であった訳だが、この後「三菱日立パワーシステムズ」は設立された。全てが「ガセ」であった訳では無い。
当時ネットで「三菱が日立のような3流会社と合併する訳が無い」という意見を見た記憶がある。
私はこの意見に違和感を持っていた。
この意見を投稿した者は以下のうちのどれかに分類される。
①三菱関係の者
②日立関係の者
③三菱/日立と仕事をしたことがある者
④上記のいずれでもない者
私が違和感を持ったのは「日立製作所は3流会社なのか?」ということだ。
①〜③に属する者が投稿した意見であれば一考に値する。何故なら、三菱/日立の内情・現実を知っているからだ。
①であれば、それは三菱社員の本音。
②であれば、日立社員の自虐的叫び、絶望の意思表明。
③であれば、仕事面で日立に懲り懲りの目にあわされた者だろう。
④の場合。確たる根拠も無く日立を3流会社と言っていることになる。
いくら便所の落書きとは言え、日本を代表する総合電機メーカーを「3流」と一刀両断にするのであるから、発言者は大した見識である。
そしてそれは、そのまま三菱のブランドの高さを示していることになる。
三菱 > 日立、と言っているのだ。
三菱は一流。それに比較すれば日立は2流以下であり、身分不相応の日立ごときが合併する立場には無い、と言っているのだ。
この感覚が日本人の平均的なものだと言うのであれば、三菱ブランドは大したモノだと思う。
・・・
そして、それが三菱自動車の ”弱点” だ。
日本を代表する企業群団。国家を支えてきたエリート。高い技術力。人々のそれへの信奉。決してつぶれることがない会社。恐らく、他の企業が何年経っても得ることのできない企業ブランド。
これらの価値観に裏打ちされたプライドが改革の障壁になっている。変革の芽を潰している。
三菱自動車の再生は果たして成されるか…
罪は深い、と思っている。