ゼウスが残したもの
全知全能の神。その名をゼウスという。
ゼウスは全知全能であるが、実はお下劣でスケベ、下半身は人格無しだった。
彼は、女に目がない。
ゲスの神様だった。
女をモノにするためにはどんなことでもする。全知全能を使って。
ある日、ゼウスは野原で絶世の美女を見かけた。
ゼウスはどうしても彼女を手に入れたかった。どうすれば想いを遂げられるか懸命に考えた。そして、その熟考の末、彼は ”牛” になった。
全知全能の神が…である。
その後、野原にいるフツーの牛さんの振りをして彼女に近づいた。
彼女は、すぐ、その牛に気がついた。
純白でとても美しい牡牛。彼女は、牛の頭を撫でた。
牛は嬉しそうに鳴いた。
彼女は牛が気に入った。そして、それにまたがった。
牛は、しばらく野原を歩いていたが、海辺に着くと突如走り出した。そして、そのまま海に飛び込んだ。
彼女は大層驚いたが、海中では魚やイルカ、そして妖精たちが彼女を歓迎した。
「あなたは誰?」
「私は神々の王、ゼウス。恐れることは無い。愛ゆえにこのような姿でお前を迎えにきた」
ゼウスは、彼女を自分が生まれた土地、地中海に浮かぶ島、クレタ島に連れて行った。そして、二人は夫婦となった。
ゼウスは、その記念に自らが変身した牛の姿を夜空に投影した。
それが現在で言う「牡牛座」だ。
残念ながら、牡牛座に品位というものを感じられない。
彼女の名は「エウロパ」という。やがて、彼女が住む新しい土地はその名をとって「ヨーロッパ」と呼ばれることとなった。
ほどほどの年月生きていると、とんでもない事件に出くわしたり、あるいは出来事を見聞したりするものだ。
私のなんでもない人生の中でも1990年にあったドイツ統合や湾岸戦争は、記憶に残る大事件の一つであった。
これは、まぎれもなく大事件であり、後年、歴史教科書に掲載されることになるだろう。
まさか、このようなことが起きるとは夢にも思っていなかった。
壮大な社会実験の ”終焉 ” の始まりを今、私達は見ているのだろうか。
欧州からは遠いところに住む私達日本人には、ブリテンの人達の気持ちは分からない。
果たして、北アイルランド、スコットランドは王国連合に残るのか、あるいはブリテンから離脱し、EUへの加盟を目指すのだろうか…
日本では二言目には「欧米」という言葉を発する人がいるが、そもそも、欧州とUSAは各々が同じ政治体制・文化・メンタリティを有する国ではない。
USAは州の連合体であり、50の制度・文化をもつ地域の集まりだ。建国して200年と少し。若い、連合体国家だ。
そして、欧州は古い歴史を持つおよそ50の国家から形成される。
それぞれが有史以来、独自の文化・歴史を刻んできている。
その中で、EU加盟国は28ヵ国。
およそ、半分だけだ。
ひとくくりに「欧米」などと呼べるものではない。
今回の一件が、他の加盟諸国に与える精神的インパクトは無視出来ない。今後、ブリテンに追随する国が出てくることも否定出来ない。
果たして、欧州の鉄の結束は破綻してしまうのだろうか…
日本のマスコミは世界的な経済危機が来るかのように煽りまくっている。今朝の日経新聞もこの通り。
↑ ユーロ導入前の各国のコイン6ヵ国分。当時、国同士の行き来がどんだけ不便だったか想像出来る?
株価の下落により時価総額の5%、およそ330兆円が1日で失われた、と言うがこれはホントではない。330兆円は、金(GOLD)かプラチナか、円か石油に変わっただけだ。失われた訳では無い。お金が証券から別のものへと形を替えただけだ。
このような算数に一体何の意味があると言うのだろう。
考えるべきは、金の問題ではない。別にある。
それからこれを機に言っておきたい。
少子高齢化を突き進む日本において、その解決策に「移民」というキーワードを安直に発していた人達よ。
「ユーロに学べ」
移民政策など、そんな簡単に言い出すものではない。
国家のアイデンティティに関わる重要問題だ。
真の差別の無い国家・地域社会が日本に簡単に作れると妄想しているのか?
今でもさまざまなハラスメントを根絶できず、ブラックな労働観が蔓延するこの国で。
この国の民族構成は比較的シンプルだ。それにもかかわらず、差別が存在するのだ。 評論家は、身の程を自覚すべきだろう。
「この地で、二度と戦争を起こさない」
恐らくEU設立の当初の理念・目的は、そのようにシンプルなものであったと思う。
しかし、時は流れ、やがて理想だけではその結束を維持することが出来なくなってきた。
「私達は私達」
ブリテンの人達の自力自決の崇高な理念。
ブリテンは、時計の針を戻したのか…、あるいは進めたのか。
ゼウスの忘れ形見は、果たして今後どのような歴史を刻むのであろうか。