オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

企業努力

 随分前のことであるが、初めてハワイに行った折、小型でシャレたスポーツカーが走っているのを見かけた。

 オープンではない。クーぺタイプだ。大きさは4mくらいか・・・。アメ車にしては極めて小さい。2シーターの様だった。

 「何だろう?あの車。見たことない・・・」

 その後、スーパーの駐車場でその車が停めてあるのを見た。気になっていたので、側に寄ってじっくりと確認した。

 何と、この車、ミッドシップだった。これにはたまげた。

 エンブレムを見ると ”Pontiac Fiero” と打ってある。

 「ポンティアックがこんな洒落た車作ってるんだ」

 驚きは感心に変わった。

 「これ、いいなぁ」心底思った。

 当時、ミッドシップスポーツカーに乗ろうと思ったら、恐らくフェラーリランボルギーニしかなかった。ロータスだって、アストンマーチンだって、アルファロメオだって、皆んなFRだ。ポルシェはRR。HONDA Beatはこの頃、まだ無い・・・。小型のミッドシップスポーツ。まだ、未開拓のセグメントだった・・・。

 

 それから1年後、妻とグアム島に旅行に行くことになった。

 グアムに行ったらレンタカーを借りることにしていた。

 車種は私に任されていた。私は妻に言った。

 「滅多に乗れない車にしようよ。スポーツカーにしない?」

 「いいよ。何にするの?アメ車でしょ?大っきいヤツ?」

 妻は恐らくトランザムのようなスポーツカーをイメージしていたと思う。

 「ポンティアックフィエロ

 「?」

 「フィエロ。去年、ハワイで見た小さいスポーツカーだよ。」

 「ああ、あれね。いいよ。」

 そして、グアムに到着すると早速レンターカーを手配した。しかし・・・。

 残念ながら、フィエロは空きがなく借りることが叶わなかった。代わりに差し出されたのが "ターセル"。

 「・・・」

 私は絶句した。

 ターセルは、分かりやすく言うと「カローラⅡ」だ。その当時、私はサニーのハッチバック(305Re)に乗っていた。

 これはシャレにならん。

 外国で滅多に乗れない車に乗ろうとしたら、いつもと同じ車を差し出された、と言うことだ。それも、よりによって日本車。USAで。

 ま、しかし、文句を言っても始まらない。私達はターセルグアム島のドライブを楽しんだ。

 「フィエロ、日本でも売っていればいいのにね。」

 妻は私を慰めてくれた。

 その数年後、TOYOTAは新型MR-2の海外販売を開始する。

 MR-2はUSAにも輸出された。そして、あっという間にフィエロの持っていた市場を席巻した。数年後、一部のファンに惜しまれながらフィエロはその生涯を閉じる。ポンティアックに後継車は未だ存在しない。

 私は今でもフィエロは好きだ。

 

 アメ車には興味がない。全く知らない訳ではない。しかし、好きではないので興味もない。極めてシンプルな理由で私はアメ車には見向きもしない。

 これまでアメ車で興味を持ったのはJeep Cherokeeくらいだ。これは買ってもいいと真剣に考えていた。当時の私の中での競合はランドクルーザー・プラド。

 しかし、結局買ったのはカリブ(Carib)だった。

 

 新しいUSAのプレジデントは「日本はUSAで日本車を乱売しているのに、アメ車は差別されているため日本では全く売れていない。アンフェアだ!」と意味不明のことを言っている。

 この人、本当にアホなんだと思う。

 いや、失礼した。

 この人に言いたい。

 「フィエロを復活させて日本で売って下さい!」

 約束する。その時、私はフィエロを買う。

 

 私が欲しいのはリンカーンではない。ファイアーバードでもない。マスタングはブスなので嫌いだ。コルベットも全部嫌い。クライスラーって今、何を作っているんだ?

 USAの自動車メーカーは、皆私の好みの車を作ってくれていない。

 外車が嫌いなのではない。現に、今はドイツの小型車に乗っている。 

 USAの車が日本で全く売れないのは規制のせいなんかではない。

 趣味の悪いものを売ろうとしているからだ。

 USAのプレジデント、日本人にUSAの車を買わせる手段を教えてあげる。

 

 「俺たちの好みの車を作れ」

 

 これを日本では企業努力と言う。