オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

妻は、もののけ…

 突然の訃報だった。

 彼女は一人っ子。

 父親の死去に際し、様々な身辺整理が迫ることは必然と言える。彼女は「しばらく実家に帰る」と言った。しかし、「落ち着いたら、また横浜に戻る」とも言った。

 私はただ、「うん」とだけ言う。

 彼女の実家は東北。

 私は当時、東北地方には行ったことがなく、ただ遠く寒い場所だ、というチープな認識しかなかった。

 私は、ただ、彼女が突然の悲しい出来事で必然的に横浜を離れ遠い故郷に帰って行く、と認識するしかなかった。その日は彼女の部屋に泊まった。

 彼女の体は冷たかった…

 

 翌日の昼頃には引越しの業者が来る手筈だった。

 私は名残惜しみがないよう、朝の早い時間に、玄関で彼女に別れの言葉を言った。

 その時、何故か、どこからか来た子猫が彼女の足元にいた。

 どこからか現れて、彼女の足元に寄り添っていた。

 まさに、迷い猫。

 

 彼女は、その猫をそっと抱き上げた。そして、頬ずりをした。

 「どうするの?その猫…」

 「しばらく、一緒にいる。連れてはいけないど…」

 私はその場を後にした。

 猫と彼女が私を見送っていたシーンは今でも覚えている。

 

 彼女は半年後、横浜に戻って来た。

 その後、私は彼女と結婚した。

 ・・・

 

 現在。

 彼女のそばには何故かいつも猫がいる。

 彼女は時々猫に話しかけている。

 私は、ある時、彼女が猫に話しかけ、その結果、猫が後ずさりし、彼女がその手を掴んで何か話している場面を見たことがある。

 猫が後ずさりし、その手を人間が掴むシーンを想像してみてほしい。かなり珍しく、シュールなものだ。

 私には、彼女が実は猫と対話できるように見える。

 今でもそうであるが、我が家には迷い猫がよく来る。その度に彼女は「猫助け(人助けと同じ)」と言って引き取って世話をしている。おかげで、我が家は一時的に猫だらけになる時があった。

 

 何故、猫達が我が家を目指すのかは知らない。わからない。

 彼女が何匹かの猫を前に何か話しかけているのを見かけたことがる。

 彼女の前では、猫達は従順だ。

 あの勝手気ままな猫達が何故、かくも彼女の前では言うことを守っているのだろうか?

 私は、いつからか彼女は「猫の女王」(マザー or クィーン)なのではないか、あるいはそれにまつわる何かを有している特別な力を持った人、もののけなのではないか、と妄想し始めている。

 

 不思議なことがある。

 彼女は、真冬でもTシャツ一枚でいることがしばしばだ(独身時代からそうだ)。

 「寒くないの?」

 「平気…」

 いくら、体に肉厚があるといっても、その格好はないだろ!とこちらが心配するほどであるが、本人はいたって平気。真冬でも、超薄着である。

 一方、5月あたりからリビングのエアコンは全稼働させている。彼女以外の者にとって、はっきり言って寒い。

 食事のためリビングに集まると家族全員が「寒い!」と言っている。

 ただ、本人は「これでいいの」で押し通している。結婚以来、ずっとだ。

 しかし、どう考えても明らかに寒い。彼女以外は皆そう証言している。何故、あのように寒気を好むのか?

  低温を極端に好む。一方、暑い日彼女は死んでいる。

 

 動植物と会話しているように見えることがよくある。

 迷い猫(犬だって来たことある)がよく来る。

 体が冷たい。

 怒ったら引っ掻く(ニャ〜とは言わないが)。

 ツンデレである。

 

 私はもののけと結婚したのだろうか?

 あえて例えるならば、彼女は「雪女」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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