ベルギー戦を前に
その日、私は調子が良かった。南場に入ってから立て続けに満貫を上がり点棒はプラス3万点を超えていた。
場はオーラス。私以外の3人はマイナス、所謂一人勝ちだった。
一発逆転を狙うなら私に役満直撃しかない。
対面の親は当然、連チャン狙いできている。手牌は早そうだ。
その時、下家がリーチをかけてきた。
捨て牌を見ると単なるリーチ、平和っぽく見える。
字牌の高い場ではない。大三元はない。捨て牌からもちろん、純全帯(ジュンチャン)系もない。さらにいうなら、四暗刻ならこういう捨てにはならない。
これは…のみ手だな。諦めたか…。
私は下家の当たり牌を予想し手持ちから切った。
「ロン」
下家の手牌は、リーチ・平和だった。
2000点を支払って場は終局。私の一人勝ち、断トツだった。
対面にいた親の友人Aが言った。
「ゆず、ひょっとしてわざと切った?」
「ああ、あそこでのみ手のリーチはないわ。終わりだよ。親としては邪魔されたな」
「俺は、ゆずのああいう打ち方は嫌いだ。」
「悪かったね。しかし、俺にすればノーテン罰符2回払うのと同じだよ。」
「でも…」
「あの手でリーチはないだろ。あれ以上、下家に付き合ってるとお前が上がったろ?お前の連チャン阻止だよ。妥当な作戦と思うけどね」
・・・
学生時代の思い出。
私は、わざと負けて勝負に勝ったことがある、ということ。
先日のサッカー、ポーランドVS日本の試合は国内でもとった戦術に賛否が別れている。
正直、私はどう判断すれば良いのか分からなくなっている。
ファンとしては、日本が決勝トーナメントに進んでくれて嬉しい。しかし、海外メディアが日本を猛烈に責めるのも理解する。確かに下らない試合運びだった。
こういう話になるとどうしても高校野球の石川星稜VS明徳義塾の試合を思い出してしまう。
そう、あの5打席連続敬遠だ。
あの行為は私は今でも許せないと思っている。
でも、支持するものも多くいた。「ルール違反じゃない」と。
あの議論の結論はOKで付いているのだろ?
あの時、ドヤ顔で「これはルール違反じゃないから良いんだ」と言っていた自称野球ファンが多くいた。
私は「いや、これ高校野球だろ?勝負じゃないのか」と思っていた。
野球とサッカーは違う。全然違う。
しかし、勝負としては同じだ。
サッカーで時間つぶしはよく見られる。国籍を問わず試合終盤では露骨にやっている。ルール上問題はない。
勝負の放棄はプロ野球でもシーズン終盤によく見られる。個人タイトル取得が、チーム同士の勝負に優っていることを見せつけられる。
日本は「わざと負けた」と言われている。
西野監督は「このままでいい」と言ったそうだ。少しだけ違うと思う。
そして、目標を達成した。
私は明徳義塾がOKなら、同じメンタリティで日本の人たちはあの試合をOKというものだと思っていた。
しかし、違っていた。
よく分からない。
皆の言ってることが…
予選リーグ敗退がそんなに楽しいか?嬉しいか?
あと、30分でベルギーとの試合が始まる。
もし、これに勝てば、西野ジャパンに対して新たな、評価が生まれるのだろうか。
私たちは、一体彼らに何を期待しているのだ。