「大局観(その2)」
隣の猿野郎がまたうちの敷地に入って来た。本当に腹が立つ。
「少しくらい敷地を超えたからってうるさいこと言うなよ。友達だろ」だって。
おまえなんか、友達じゃないよ。商売上、お付き合いしているだけだ。くやしいが、お前ん家のモノ、出来がいいからな。
でも、それもあと暫くの間だけだ。あと、50年も経ったら、俺たちの子供や孫達があいつらのモノよりも良いもん作れるようになる。
いつまでも、自分がこの地域で一番だと思うなよ。
大体、昔から力仕事もしないくせに、商売だけは上手いんだよ。そんなの自慢になるか。
俺たちは3000年前から苦労してこの地域に家を建て、ファミリーを引き取ったんだ。親も血筋も違うんだぜ。その苦労が分かってるか。この土地は特別なもんなんだ。
お前が今踏んづけてるその土地も、本来は俺たちのものだ。
70年前のドサクサで、ニューヨーク町のおっさんが勝手にここに線を引いただけだ。おれは、そんなの認めない。絶対に。
ニューヨーク町長には関係ない、ってこの間も言っておいた。おまえらの約束なんて知るか。
一緒になって殴りかかってきたら、猿野郎にだけは何が何でもパンチを喰らわしてやる。
じいちゃん家に火をつけたことを俺は一生忘れない。
あの時の仕返しをしたいと、ず〜っと思っていたんだ。
俺が出来なければ、俺の子供が復讐する。それがダメなら孫がやる。いいか、俺たちは100年先を見て行動してるんだぞ。今の商売なんかどうでもいいんだ。
商売相手はおまえの所だけじゃない。10年苦労しても、その後の10年で取り返して、その次の80年でこの地域を俺が纏めてやる。
親戚・身内を纏めきれない猿野郎にそんなことができるものか。
自分のケツも拭けてないじゃないか。
「大局観を持て」だと?
何を小賢しいこと言ってるんだ。
「大局観」なら持ってるよ。少なくとも100年後だ。
お前の言う大局観って、どれくらいの時間のレンジだ?1年か?5年か?
そんな目先のことばかりに目を向けてバカか!お前は!
おまえ、二言目には”商売”だろ。
お前は商売のことしか考えてないのか?
俺とお前に、”商売”を抜いたらどんな関係があるというんだ。金以外で何が繋がっていると思っているんだ。
本当に大事なのは、”商売”じゃなくて”気持ち”じゃないのか。
お前なんかと友達にはならない。絶対に。
俺は違うやつと一緒にやっていく
〜つづく〜