AT PIN-HOLE!
私の名は、デイブ。デイブ・マッカートニー。
その男は、180cmをゆうに越す背丈をしていた。大きな肩幅、厚い胸板とがっしりとした肢体。彫りの深い顔。鋭い目つき。
一体、何者だろうか?
ヘンメリー・ワルサーを手に取ったが、すぐに戻した。
「他のものを見せてもらおう・・・か」
「ヘンメリー・ワルサーが気に召さないのですか?スイス製の名銃ですよ!最大射程3500m。貫通力も抜群です。」
「せめて・・・、銃身長が80cmは欲しい。」
「一体、標的は何ですか、豹でも撃つ気ですか?」
「1Km先のフットボールだ。銃も弾丸もそれなりのものが欲しい。」
「バ、バカな!そんなこと出来る訳がない!30口径の銃で弾を撃てば500m飛ぶうちに2.5m以上も弾丸は沈むんですよ!それだけじゃない、風速4mの横風邪の中で重弾丸を発射すれば100mで2cm、500mでは68cm、1Kmになれば計算上は実に3mの偏差が生じて来る。そ、そんなこと出来る訳が無い!まるで、ピンホールを狙うようなものだ!クレイジーだ!出来る訳が無い!」
「だから・・・、それだけの銃と弾丸が欲しくてここに来た。あんたのカスタム(改造)の腕、技術を聞いたからこそ、ここを選んだんだ。俺の注文に、Yesか、それともNoか?」
私は絶句した。
JFKの暗殺以来、銃の取り締まりが格段に厳しくなり、自由に改造銃を作れなくなった私は止む無く、地下に潜り、細々とカスタムメイドを続けて来た。これまで、客のオーダーであれば何でも作って来た。対戦車砲をカスタムしたことだってある。しかし、このような注文は初めてだ。そんな精工・精緻な銃の注文などこれまで無かった。
この男、一体何者なんだ?!
「・・・。ヘンメリー・ワルサーを土台にして作るよりないな・・・。何とかやってみる。3日、時間をくれ」
「3時間でやってくれ。」
「さ、3時間!」
「銃に1万ドル、時間に1万ドル払う。Yesか、Noか?」
「わ、分かった。すぐに取りかかる。他に聞いておくオーダーはあるか?」
「銃の口径は30-06、形式はボルトアクション単発、激発装置はエレクトロン・パーカッション。プッシュ・ボタン式にしてくれ。羽根が触れただけで発射できるくらいに軽くセットすること」
「そりゃ、そうだ。手元で0.5mmぶれても、標的には当たらないからな。」
「超ロングマグナム弾を使う。薬室は大きくしてくれ。火薬量も多く、弾丸も重い方がいい。鉛とステンレスで包んだものを用意してくれ。弾は1発だけでいい。」
「し、試射もしないのか?」
「1発で全てが決まるのだ。2発目を撃つ事はあり得ない・・・。やれるな?」
「私の全てを賭けて作る!ハンドメーカー、デイブ・マッカートニーの全てを賭けて」
男は、札束を無造作に机の上に置き、その場を去った。そして、きっちり3時間後、銃を受け取りに現れ、そして街の喧噪の中に消えていった。
「何者なんだ・・・、あの男」
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翌日の朝、私はいつものようにコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
私の目は、一面の記事に釘付けになった。
『ハイジャック犯、FBIに射殺される』・・・エル・パソ国際空港で起きたハイジャック事件は、発生から5時間後、FBI特殊班による犯人の射殺と言う形で幕を閉じた。犯人、フリッツ・スタインは、当局に対しキューバへの亡命を求めていたが、FBIの精鋭による超長距離射撃により、ハイジャックしたジェット機のコクピット内で額を打ち抜かれ、即死した。なお、この超長距離射撃を行った隊員の名は明かされていないが、1000mを超える距離であった為、関係者の一部ではオリンピック・ゴールドメダリストのトム・クロスビーではないか、との声も聞かれる・・・』
「あの男だ!あの男に違いない!そうか、そうだったのか。それで、あのようなモノが必要だったのか」
しかし、1000mの超長距離射撃とは・・・。まさにAT PIN-HOLEだ。
私は、デイブ・マッカートニー。
アメリカで一番のハンドメーカーを自負する男・・・。
この1件以降、「あの男」は私の得意客となった。