「汚らわしい」とは何か

　もう何年も前の事。

　仕事で広島に行った時、先方が気を使って下さり、打ち合わせ後、スナックに連れて行ってくれた。

　入り口、店内は別に何でもない普通のお店。

　私の隣に座った若い女性は、小柄な人で、とびきりの美女と言う訳ではなかった。そして、ごく、ごく、フツーの飲み会が始まった。

　乾杯の音頭とほぼ同時に、隣に座っていた彼女は「ゆずさん、私が飲ませてあげる！」と言って、いきなり私をハグし、口移しで水割りを飲ませた。

　「何をするんじゃい！」

　私は咄嗟に叫んだのであるが、その行為（サービス）はその後も続いた。

　これは今で言うセクハラ行為であり、私はその被害者であった訳であるが、不愉快であったかというとそんなこともない。そして、これは、そのお店の単なるサービスの一つであった。

　…なるほど

　「これは、先方の接待だ」

　私は自覚した。

 　博多の天神にあるスナックに行ったときの事。

　この時も、仕事での打ち合わせ終了後、「ほんじゃあ、打ち上げを」と現地スタッフに誘われ、言うがまま、彼らについて行った。

　乾杯の音頭から30分くらい経過した後、マスターと数人のお姉さん達が私達の座るシートに押し寄せ、やれ飲め、やれ騒げ、やれ歌え、と囃し立てた。

　地元の皆は、もう大騒ぎ。

　歌う、踊る、騒ぐ。

　やがて、何か不思議なモノが出てくる。

　・・・カツラ、だ。

　それを被せられ、お姉さん達からさんざん化粧を施され、服まで着替えさせられた。

　私は数分後、「アルプスの少女」に変身していた。

　そして、何かの唄を歌った。・・・歌わされた。

　周りは、他のお客さんも含めて大騒動だ。

　数時間後、私は矢吹ジョーのようになっていた。

　「おっさん・・・、燃え尽きたよ・・・」

　その数日後、私の勤めるオフィスに「アルプスの少女」の写真が送られてきた。

　「また来てね！」の添い書きがしてあった。

　後日判明した事であるが、この写真は私の関係する複数の仕事場に送られていた（そのお店に行った事のある友人達のところ）。

　私は、それ以降、そのお店の「奴隷」なった。天神に行く度に顔を出さざるを得なくなった。

　コスプレのコレクションは、瞬く間に増え、とてもお見せすることなど出来ない…

　これと似たような経験は、桜木町の高級スナック（だと思う。私は払っていないので料金は不明）でもしたことがある・・・。このお店では、お姉さん達も一緒に変装してくれるので恥ずかしさは若干であるが緩和された（そういう問題か…）。

　一方、同じ桜木町の女の子を指名する（できる？）お店に行った時、隣に座った決して美人ではない女性の手を握って、「僕と結婚して下さい！」と言ったら、ママさんから、

　「うちは、そういうお店ではありませんから・・・」

　と、嗜められた。

　「では、どういうお店なんだ？」

　私の疑問は解けていない・・・　

　蔵前のちゃんこ鍋のお店に行った時には、なんと芸者さんがいた。

　お酒を注いでもらった時に、彼女の手をとって「すごく、きれいだ」と言ったら、お店の女将から、

　「うちは、そういうお店ではありませんから」

　と、全く同じことを言われた事がある。

　なるほど・・・。口移しで飲ませてくれるお店もあれば、手を握ってはいけないお店もある。世の中は「広い」

　まだまだ勉強不足だ。

　経済産業大臣がSMバーとやらに、本人は行ってはいないが、資金管理団体がそこで接待（情報交換）を行っていたとの事で、少なからず話題になっている。

　「口にするのも汚らわしい」と民主党のおばさま議員は言うが、どれほどのプレーをもって”お下劣”、”汚らわしい”と言うのかは、実際に行ってみて、経験してみなければ断定はできないだろう。

　私の数少ない経験で考えてもみても、バーだの、スナックだの、クラブだのというのは、そのサービス内容は千差万別だ。

　女性スタッフが鞭で打たれる、あるいは打ってくれるとは言っても、どの程度のハードプレイであるかを想像ばかりしても仕方が無い。

　おばさま議員は、実際にそのお店に行ってみて、鞭で打ってもらってみない事には、「汚らわしい」のか、単なる「お遊び」「サービス」であるのかは断定出来ないと思う。

　おばさま自身が、Sなのか、Mなのかを知る上でも実際に行って、やってみる意義はある。

　お酒の楽しみ方はさまざまだ。

　ただし、後援会組織や秘書がスナックで飲んだツケを政治資金で支払うのは本来好ましくない。

　今回の事態は、ただ、それだけのことだ。

　「汚らわしい」と非難した議員は、一方で地元のセクシャルなお祭りに参加していた、との報道がある。

　ほら、「汚らわしい」の定義は、存外、難しいじゃん。