隙をつく災厄
故小松左京氏によるベストセラー「日本沈没」には『超広域震源地震』という超地殻変動が出てくる。
この小説の中で、日本列島は太平洋プレートの沈降位置の激変により、日本海プレートに押され、日本海溝に折れ曲がるように沈降する。最終的に日本列島のほぼ全域が沈没してしまうのであるが、その引き金を引くのが先の『超広域震源地震』と呼ばれる架空の地殻変動である。
これは、志摩半島から紀伊半島中央部を横断し、四国中央部を東西に走って九州中央部を北東から南西へ抜ける「中央構造線」に一斉に超巨大地震が発生するという設定だ。この超巨大地震により西日本は上下に引き裂かれ急速に水没していく。
超広域に及ぶ断層のずれがもたらした地震の被害は途方もない規模になり、小説の中では西日本の住民200万人が一挙に犠牲になるという、史上空前の大災害として描かれている。
この話はフィクションであり、あくまで空想の話の筈だった。
2016年4月14日21:26、熊本地方にM6.5、最大震度7の直下型地震が発生。
そして、16日01:25、M7.3の地震が追い打ちをかけた。
昨日からNHKは現地の様子を詳しく伝えるとともに、被災者を励ます放送を繰り返している。
現地の惨状は見るのが辛い。凄まじい。
あの時も、当初伝えられた被害は大したものではなかった。しかし、時間が経つにつれその全容は明らかになり、想像を絶する被害が阪神地区にもたらされたことが後に分かった。
忘れかけた頃にもたらされる災厄…
現地の方も、まさか熊本に大地震が起きるとは予測していなかったのではないか。
過去を振り返るとあの地方に大きな地震が無かった訳では無い。
しかし、多くの人々は三陸地方、関東地方の震源に気をとられていたのではないか。
私達の気持ちの隙をついて発生するのも地震という災厄の特徴だ。
警告が無かった訳では無い。
政府の地震調査委員会が想定していた活断層を震源とする地震には、布田川・日奈久断層帯も含まれていた。その発生確率は「30年以内に3%」となっている。
これを私達は何と捉えれば良かったのであろうか…
「中央構造線」は四国の中央部を走り伊予地方に至る。
そして、その西方にある伊方、佐田岬、豊後水道を超えた先に別府・万年山断層帯があり、布田川・日奈久断層帯はその延長線に存在する。
警告はあったと受け止めるべきであろう。
そして、熊本に起きた災厄は、いつ私達の住む地域に起きるか分からないという教訓を示している。
日本列島は活断層に乗っかっているようなもの。
決してひと事ではないのだ。