オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

ボランティアに込めた傲慢

 東京オリンピックのボランティア募集要項(案)が発表された。

tokyo2020.org

 この中の「活動にあたり提供する物品等」の内容がちょっとした話題になっている。

 

  • ・ユニフォーム
  • ・活動中の飲食
  • ・ボランティア活動向けの保険

・東京(会場が所在する都市)までの交通費及び宿泊は自己負担・自己手配となります

 

 上記の通り、「完全無償」だ。

 これに先立つ、募集の前提は下記。

  • 東京2020 大会の大会ボランティアとして、活躍したいという熱意を持っている方
  • オリンピック・パラリンピック競技に関する基本的な知識がある方
  • スポーツボランティア経験をはじめとするボランティア経験がある方
  • 英語やその他言語のスキルを活かしたい方

 求めている高邁な精神と専門スキル、それに対する報酬の関係が著しくアンバランスだ。

 これまで私も仕事を休んで参加し、何らかの貢献を担いたいと考えていたがヤメた。会場までの交通費すら支給されないのでは協力のしようがない。

 これって、山手線沿線に住んでいる人でないと相当な出費になる。宿泊費も出ないのであれば、近隣圏に住んでいる人(私もそう)は通うしかない。あの朝の通勤ラッシュをかいくぐって。

 オリンピックとなれば、外国から見物客がどっと押し寄せ、大会期間中の首都圏交通は従来に輪をかけ、相当な混雑になることだろう。

 そんな中、サラリーマンに混じって東京まで通勤など、とんでもない。間違いなく会場に到着するまでにほとんどの体力を消耗することになる。

 運営者、本気かよ?

 これ、ボランティアに名を借りた「タダ働き」だ。限りなく「搾取」「奴隷」に近い。一体、どんな境遇の人がこれに申し込むのだろうか。

 不思議だ…

 いや、これ(募集)って成り立つのか?

 ロンドンオリンピックでも同様の内容だったらしいが、そもそもロンドンと東京ってインフラ条件を同列に考えていいのか?

 イベントを前に凄まじく興ざめした…

 

 ・・・・・・・・・・

 

 オリンピックまであと2年ほどになったが、それが近づくにつれ、当初とは違い色んな不安を感じるようになった。

 会場施設は間に合うのか?運営は精緻な計画か?警備、セキュリティは大丈夫か?

 何より、首都圏の交通インフラは、このビッグイベントに耐えられるのか?

 鉄道の駅は全くもってバリアフリーではないぞ(逆にバリアだらけだ)。それに山手線と私鉄各線にはホームドアすらついていない駅が山ほど存在する。朝夕は転落の可能性すらあり危険極まりない。

 運営者は、朝夕の大混雑、雑踏の中に「外国人観光客」を放り込んで、無事目的地にたどり着くと考えているのか?あのグチャグチャの行き先標識を外国人が理解できるとでも?

 

 今や、サービス業だけでなく、まるで日本人全員に観光客に対し「O・MO・TE・NA・SHI」をせよと言わんばかりの風潮を感じているが、そんな都合のいいことが実現できるのか?

 私は道に迷っている外国の方を見たら「May I help you?」と言う気はある。しかし、「もてなし」まではしないぞ。そんなの私の知ったことではない。それは宿泊施設、飲食店がやるべきプロの仕事の領域だ。民間人に言われても困る。

 私も外国を旅行した際、現地の人に道を聞いて助かったことはある。だから、その恩返しはする。しかし、余分なサービスまではしない。当たり前だ。親切と義務は違う。

 運営側の態度に、オリンピックを口実に行きすぎた奉仕を国民に強要せんばかりに感じる場面が時々ある。

 今回の募集要項にしても、少々傲慢がすぎるのではないか。どんな過酷な労働条件であっても、国民はありがたく喜んでそれを享受するに違いないと思ってはいないか?

 人を人とも思わないような運営方針には賛同しかねる。

 当たり前だ。オリンピックをありがたく思っている人ばかりで世の中構成されているのではない。

 運営者は今回の件を反省し募集要綱を見直すべきだと思う。

 タダ働きを前提としたイベント運営って異常だ。非常識だ。本来、「無償の労働」はあり得ない。労働価値を否定している。

 もっと自国の国民・市民を大切に想うべきであろう。

 

 もう少し、冷静になってオリンピックを迎えようと思う。

 多くの外国の方が訪れるであろうことから、相応の心の準備はしたい。

 英語も少しは自学自習する。

 困っている人を見かけたら奉仕はしないが、優しくはする。エスコートも。

 別に皆んなに日本を好きなってもらう必要は感じない。

 しかし、少なくとも、不愉快な思いはしてもらいたくない、私はそう考えているだけだ。