オリオン座が沈む窓

azuyuz captain's log〜”ゆず”艦長の航海日誌

反撃!

 機関室付近に被弾したようだ。大爆音で艦体は大きく身震いした。

 「ボイラー1機停止しました。」

 機関長からの連絡である。

 「もう1機は使えるか?」

 「はい!大丈夫です。」

 「まずは機関停止。こちらからの指示があれば直ちに始動せよ。出来るか?」

 「お任せを」

 やはりただ者ではなかった。こちらの攻撃後の一瞬、回頭したタイミングを狙って魚雷を打ってきた。攻撃パターンを読まれていた。これは、私の失策だ。

 昨日から、あの艦を追跡してきたが、ここまで状況を追い込めたのは、相手側の艦長の信念を感じたからだ。進路140にこだわらなければ、恐らく我々を振り切れている。小回りは相手の方が上だ。

 私は、きっと、140に戻るとの賭けをしただけだ。

 足止め作戦をしたつもりであったが、ピンポイントを突かれた。どうやって測ったのか分からないが、艦の回頭直後を狙われたのであれば、これはかわせない。

 「この一瞬を狙えるなんて、敵の指揮官は一体どんなやつなんだろうか…  」

 

 艦は絶望的な状況だ。エンジンは片方は使えるが、それも時間の問題。間も無くこの艦は沈む。

 どうする?

 直ちに全員退艦を命ずる。

 しかし、あの潜水艦をおざなりにする事はできない。

 多分、相手はとどめを刺しに来る。

 きっと浮上して来る…

 そこなら狙えるかもしれない。

 「マットなど集めて甲板に火をつけろ。相手側を油断させる為に偽装する。急げ!」

 クルー達は絶望の中、敏速に行動した。

 身近なものを集めて甲板におき、ガソリンをかけ火をつけた。あっという間に甲板上は火につつまれた。

 しかし、それは表層が燃えているだけで、艦の存在そのものに大きな影響はなかった。いずれ、沈む運命にあった…

 艦上は、一瞬であるが燃え上がったように見えた。

 「これで本当に敵を誘い出せるのか?」

 クルー達は訝った。

 その時、艦長から命令が声高に発せられた。

 「総員、退艦!無事を祈る」

 部下達は、命令に従った。色々あるが従った。副長と機関室のメンバー、砲撃手1名だけが艦長と共に沈みゆく艦に残った。

 

 潜水艦は浮上した。

 ライトを使って信号を発している。艦長は双眼鏡を覗きながら敵の信号を読んだ。

 「5分間、時間をもらった。最後のチャンスだ。副長、ヨット操縦の経験があると聞いているが…」

 「その通りです。」

 「舵をとってみるか?」

 「喜んで!」

 「砲撃手、準備はできているか?1発目は艦尾のエンジンを狙え。次は、艦橋。その次からは好きに撃て。いいか?」

 「はい!」

 「機関室!バルブを開けろ、出力全開だ。そして、全員退艦しろ。一人も残すな!」

 艦はゆっくりと動き始めた。

 副長は意外と冷静に操舵をしている。舳先を浮上した潜水艦に向けた。そして前進した。加速する。

 「撃て!」

 轟音一発。

 相手側潜水艦の艦尾に見事命中。そして、すかさず第二弾。

 潜水艦の司令塔付近に命中。何かが吹き飛んだのが肉眼で確認できた。

 相手側は機銃を連射している。しかし、当たる乗員は誰もいない。「総員退去」済みだ。

 「このまま、突っ込んで自爆か…」

 それも悪くない。妻を航海中に、潜水艦の攻撃で失って以来、受ける側からやる側に回る、ただそれだけの理由で海軍に従軍してきた。

 大した戦いの理由はない。潜水艦の指揮官とも憎み合って殺し合いをやっているわけではない。そして相手の戦う理由を理解しても、この戦いを終わらせられる訳ではない。

 所詮は殺しあうだけの関係だ。悪く思うなよ…

 種々の考えが頭をよぎった。

 

 行け。

 まっすぐ行け!

 私も多くの部下を失った。

 その手向けだ。私とともに…