斜陽
パイオニア衰退の話の続編みたいになっている。
ソニー、2300億円の赤字。
「東芝は国内のPCメーカーでは数少ない世界で戦える企業で、国内向け比率は1〜2割程度。ブロードバンド時代に入り、市場が急成長しコモディティ化が進むと海外勢に遅れをとり、シェアが低下。それまでブランド力が高かったが故に、収益が見込める法人シフトが遅れた…」とは日経の評。
「世界で戦える&ブランド力が高い」PCとは、dynabookのことを指している。
このノートPCは、1985年に発売されたIBM PC互換のアーキティクチャをもった製品だった。
この当時、国内のパソコン市場は、NECのPC-9801がシェアを独占しており、「IBM PC互換機って何?」「それ、美味しいの?」という状況。知名度はゼロ。
USAでは、dynabookがバカ売れしていたが、何が起きているかは日本で報道されることは無かった。
dynabookが売れたのは偏に「持ち運べるIBM PC」だったから…
この元祖モバイルPCに、USAの忙しいビジネスパーソン、エグゼクティブ達は一斉に飛びついた。
何たって、このノートPCは飛行機の中でも使える。四六時中、仕事をしていたい(must beも含めて)人にとって、このPCは必需品であった。
ジェットの中での必須アイテムという点では、dynabookとWalkmanには共通性がある。
皮肉なことに、日本でこのPCが有名になったのは、東芝機械という会社が「ココム違反事件」を起こし、その制裁としてUSAがペンタゴンに納入予定であったdynabookの調達を中止したことが報道されたからだ。
国内の反応は、
「へっ?dynabookって何?」
「東芝って、パソコン作ってたの?」
この反応は、日立がIBM事件を起こしたときの反応と似ている。
東芝は、以前からメインフレームを作っていたし、パソコンはデスクトップもノートも販売していた(日立と全く同じ)。
dynabookがUSAで売れていたことは事実であるが、日経が言う「ブランド力があった」かはビミョーだと思う。また「海外勢に遅れをとった」と言うのも”何”が遅れたのかがよく分からない。
繰り返すが、dynabookの特徴は、IBM PC互換機であり、安価であった、ということだ。
この報道で、トップメーカーが頂点から転がり落ちた、との印象を抱くのであれば、それは市場の現状とは少し違うと、私は思う。
これまで、東芝はごく普通のビジネスモデルを継続してきただけであり、辿っている道は、IBM、NEC(Packard Bell)、Panasonicとさして変わらない印象だ。
IBMはとっくの昔にThinkPadを捨てているし、PanasonicのLet's noteは既に法人向けモデルだ。
それと同じこと。つまり、大した事件ではない。
しかし、「PCビジネスが儲からない」ということは国内メーカーにとっては”市場の真理”になりつつある。
9月18日付けのBLOGOSで「“死に体”ソニーを救う「たったひとつのこと」」という刺激的なタイトルでオピニオンが掲載されていた。
非常に辛辣な内容であり、以前からのソニー愛好家にとっては読むに辛いものであろう。
しかし、私はこれと同じ内容のことを土井利忠氏の講演会で聞いたことがある。
土井氏は、ソニー在籍中に「NEWS」や「AIBO」の開発にかかわった方だ。
この方は、出井社長になってから社内でメンタルになる社員が続出したが、真っ先に心療内科医のカウンセリングを受けさせたかったのは社長自身だった、とまで仰っていた(実現しなかったとのこと)。
出井氏の経営者としての評価は、今や地に落ちて果てている、のかも知れない(一部に、未だ強烈なシンパは存在するが)。
過度に短期的な成果を求める目標管理制度、事業内容を熟知しない社外取締役に占拠された経営委員会、技術の知見に乏しいCEO…。事実であれば、今のソニーは無惨だ。
平井社長は「今後も経営再建を進める」と発言したそうだが、一方、投資家からは「構造改革が足りない」との厳しい意見も出ているらしい。
構造改革といえば聞こえは良いが、やっていることは事業の整理と切り離し、それに伴う人員整理だ。これ以上、既存事業を整理したら一体何が残るのであろうか・・。
企業のコアコンピタンスが無くなってしまうことはないか?
行き過ぎたダイエットは、企業の生命力そのものを奪う危険性がある。
技術力や品質管理のノウハウは、一度失われるとその回復には気の遠くなる時間が必要だ。
今の社長に、贅肉と筋肉の見分けはついているのか…
ソニーは、一体何をしたいのだろう。
どこに行こうとしているのだろう。
「USA式の経営論と手法により自滅した」とは言い過ぎだろうか・・・