本当の「エコ・カー」
「エネルギー保存の法則」を思い出してみよう。
「外部からの影響を受けない物理系においては、その内部でどのような変化が起きても全体としてのエネルギーは不変である」
つまり、何も無いところから新たなエネルギーは生み出せない。
錬金術は「あり得ない」ということ。賢者の石があれば嬉しいけど。
では、ハイブリッドカーは、同じ排気量のガソリンエンジンを搭載する車よりも燃費が良いのは何故だろうか?
電気を使おうが、化石燃料を燃やそうが、車の中から発生させられるエネルギー量は不変の筈だ。
それは、エンジンの回転エネルギーから作り出した電力を使って、レシプロエンジンの効率の悪い部分(ゾーン)をモーター回転力で代替させているからだ。具体的には、エンジンの低回転域。
1t前後ある自動車を起動させる(動かし始める)には、大変な力が必要だ。
しかし、レシプロエンジンはその構造上、始動時のトルクが最も小さい。
だから、ハイブリッドカーは車が走り出す部分に起動トルクが大きい電気モーターを使っている。
因に、ハイブリッドカーに用いられるモーターは決まって直流電動機だ。
何故か?
それは、直流直巻き電動機の起動トルクが大きいから(電車もこれを使っている)。
しかし、コンピューターを使っていくら巧妙な制御をしても、電力ロスは発生する。機械摩擦に起因するフリクションロスもある。
エンジンが発生させたエネルギーを車の動作に100%使い切る事は不可能だ。必ずエネルギーのロスは発生し、燃費は結局、システム全体のエネルギー効率で決定される。
つまり、モーターを使っているからハイブリッドカーの燃費が良い、と考えるのは短絡だ。
このことをエンジニアリング的に証明して見せたのが、スズキ自動車が開発した「エネ・チャージ」だ。
スズキは、これまで使い捨てられてきたエンジン減速時の回転力を用いてモーターを回し、それを充電するシステムを車に組込んだ。
この電力は、主に車の電送系に供給される。
恐らく「エネ・チャージ」が、燃費向上に最も貢献しているのは、エアコン動作の補助だろう。コンプレッサーを回すには意外と沢山の電力が必要だ。
そもそも、エアコンは電気を相当喰う。そして、これを補う為にエンジンは相当程度、発電に仕事を費やしている。
アイドリング・ストップ車に乗っている人は分かると思うが、信号停止中にエンジンが起動するのは、決まって(オート)エアコンを回す為だ。
スズキは、エンジンが走行業務に専念できるための仕掛けを作り出したのだ。
この発想/発明の成果は、全くもって素晴らしい。
「アルト」の実用燃費は22Km程度とのこと。「アクア」の実用燃費と同じだ。
これは、「ハイブリッドカー」=エコ、ではない、ということを示している。
複雑精緻なハイブリッド・エンジンを使わなくても、自動車のエネルギー効率を上げる手段はある、ということ。
「ハイブリッド・システム」は万能ではない。
車の燃費を改善する劇的な手段の一つは、「アイドリング・ストップ」だ。これだけで、10%近い改善が期待できるとも聞く。
この機能は、ハイブリッドと何の関係もない。モーターが付いていなくとも実現できるものだ。
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今、街にはハイブリッドカーが溢れている。
その中で、スイスイと走っている軽自動車を見ることがある。
無駄が少なく、効率的。
それが、本当の「エコ・カー」ではないのか・・・