燃え続ける松明の火 〜安全な原発の矛盾〜
間もなく3.11の震災から1年半になる。
思いもよらない災害であったが、あのことをきっかけに、日本人は原子力という科学技術の本質を改めて知る事に、考えることになった。
それまでは、一部に強烈な拒否反応を示し、立地・建設反対を訴える人々はいたが、その科学的・技術的根拠と危険性の現実を考える事は、一般ピープルには無縁であったと思う。
しかし、ここに来て、原発稼働の是非があちこちで議論されるようになった。マスコミもようやく、冷静な視線を投げ掛ける姿勢を見せ始めたと言える。
党総裁選候補として注目の自民党石破氏(元防衛大臣)はクールでロジカルに物事を語る人である。
この人が、「安全な原発の建設が必要」との趣旨の発言をされている。
現実論としての原発の必要性を説いているのだと思う。
経済界を始めとして、電力の安定供給、CO2対策、ランニングコストの現実論から、稼働止む無しの意見を唱える人は結構多い。今、原発を全て止めてしまうと経済が動かなくなる、との判断からだ。
これについては、異論があろうが、全面否定できる人もいないと思う。よって、議論のイシューは、電力供給の将来像(何%にするか)にシフトしている。原発再稼働は、すでに既成事実として現状追認されている訳だ。
原発は、多くの国民が認識・理解したように、原理的には複雑・精緻な科学技術ではない。発電の仕組み自体は、蒸気機関だ。火力も水力も、原子力も、発電機を回して電気を起こしていることに変わりはない。
発電機の手前には、大きなやかんが付いていて、それを何で沸かしているかの違いだけだ(水力は落下する水を直接タービンブレードに当てるが)。
高熱の蒸気で、タービンを回し、蒸気を復水器で冷やして水に戻す仕組みも、火力・原子力で全く同じだ。意外かもしれないが(工学系では常識だ)。
では、決定的に異なるのは何か?
燃やしている原材料だ。
ウランは、自然崩壊する物質であり、何もしなくても本来、放射線(エネルギー)を出している。つまり、多かれ少なかれ”燃え”続けている物質だ。
燃料棒は、濃縮ウランで出来ており、その燃え方、熱放出の量は、莫大な規模のものである。この燃料棒を作る技術こそがハイテクなのだ。
石油やガス、薪は燃えていても、一定の時間が経てば燃え尽きる。そうすると、エネルギーの放出は止まり静止する。
しかし、一旦臨界に達した燃料棒は短時間ではエネルギー的な静止に至らない。ゆっくりと、しかし永続的に燃え続ける。放射線を出しながら自然崩壊を継続する。
ウラン235の半減期は、25000年だ。質量が半分になる時間が25000年であり、これで消えて無くなる訳ではない。私達が恐れる放射線を出し続ける期間の概算だ。
「そんなこと聞いていない!」と言うかも知れないが、この程度のことは、大学の工学系出身者であれば皆理解しているはずだ。百科事典にも堂々と書いてある。そして、東電には「常識ですよ」と言われる。
このような、燃え尽きない、熱を発散し続ける燃料を扱うプラントを「私達が生きていくためには必要」と言っているのが、現政府であり経団連だ。
「いまさら松明の火に頼るつもりか?」と、彼らは言っている。
この「永遠の火」を的確に制御できるのが石破氏がいう「安全な原発」だ。
・・・果たして、そのようなものが作れるだろうか?
一旦、臨界に達したウランの火を消す技術を私達は持っていない。ウランをドラム缶の中にコンクリート詰めにし、プールで30年間冷やし続けるしかないのだ。もちろん、その水は放っておくとウランの放出熱で沸騰するため、冷却水として循環させなくてはならない。
つまり、2次冷却とポンプ、それを回す電力が必要ということだ。これは、使用済み核燃料の保全のことを言っている。原子炉の外の施設の話だ。
原発自身は、臨界状態にあるのだから、絶えず、一定の温度を維持するよう、冷却を続けながら、やかんのお湯を沸騰させなくてはならない。燃料棒を一定の温度に維持できないと、いずれ自らを燃やし尽くし、炉心溶融、メルトダウンに至ってしまう。
結論。
原子炉を安定的に運転する、制御するためには、「絶対に停止しない冷却システム」が必要である、ということだ。
絶対に停止しない、ということは、ポンプを止めてはいけない、ということであり、ポンプを動かす為の電力を絶対に止めてはいけないということだ。絶対に停電しないシステムが原発には必要なのだ。
再度、確認しておく。
一旦、核分裂連鎖反応に入った原子炉は、勝手に停止しないし冷温停止もしない。燃え続けるのだ・・・
「安全な原発」とは何だろうか。
原発を安定的に使用できる「人の智慧」のことではないのか。
機械的に絶対安心な原子力システムはあり得るのか?
バカが運転しても、絶対に暴走しない原子炉は作れるのだろうか?
どんなヒューマンエラーがあっても、必ず冷温停止(少なくとも30年間)する原子炉・・・。
東電は、「地震で全ての電力供給が止まることは想定外だった」と言った。
燃え続ける火を承知で使っているのに、「そこまで考えていませんでした」と彼らは言ったのだ。
このような人達に、このプラントの管理を任せて本当に大丈夫なのか?
完璧なハードウェアを作ればいい、と言ってしまえば、それで済むと思っている政治家に、本当にこのプラントの安全性の本質が理解できているのであろうか?
NODAは「原発の安全性を確認したので再稼働させる」と言った。
この人は、原発の安全性について、一体何を確認したのであろうか。
私はそれが知りたい。