迎えはまだか・・・
マヤ「この星の命も、午前0時でおしまいです」
ダン「君も一緒に死ぬのか・・」
マヤ「私は、仲間が迎えに来てくれる」
ダンは、手元の紙テープをそっと差し出した。地球防衛軍基地がマゼラン星からの通信を傍受したものだ。そこには、マゼラン星から地球に向けて、既に恒星間弾道ミサイルが発射されており、諜報員として潜入したマヤへの迎えは無い旨が記されてあった。
ダン「誰も来ない。君は最初から見放されていたんだ」
テープに書かれたメッセージを見るマヤの手は、かすかに震えているように見えた。
マヤは何かを言おうとしたが、それは声にはならなかった。
マヤの頬に涙が伝わった。
ダン「この星で生きよう・・。この星と共に」
・・・・
0時を告げる時計の鐘がなった。
恒星間弾道ミサイルの着弾は、地球防衛軍とダンにより阻止されたのだ。
それを確信したマヤはダンの帰りを待つ事無く、ジュークボックスに向かった。
”J” を押す。「ガチッ」という鈍い音がする。
次に、"7"。
アームが1枚のレコード盤を取り出し、再生用の針が置かれた。
レコードは、音楽を再生する事なく、白い煙を発生させた。それは大きく広がり、やがてマヤの全身を包み込んだ。
その白い煙が消散した跡に、マヤの姿は無かった。
マヤは、1枚のレコード盤とともに消滅した。
「何故、他の星ででも生きようとしなかったんだ。僕だって同じ宇宙人なのに・・・」
ダンは間に合わなかった・・・。
地球は救ったが、マヤを救えなかった。
この話はとても地味、だ。
派手な怪獣や宇宙人は出てこない。
マヤという少女が出てくるだけ。
戦闘シーンは、巨大で不気味なデザインの恒星間弾道弾とそれを迎撃する地球防衛軍の超兵器の空中戦のみ。
しかし、とても印象的なエピソードだ。
抜群にいい、と思う。
こんな話、当時の子供たちに理解できたのだろうか・・・
「ジュークボックス」は今はもう見る事はできない。レコード盤も実質的には、”絶滅”している。
しかし、この儚いエピソードに、このマシンと小物はとても似合っている。レコードで聴く音楽というものの当時の位置付けをよく表していると思う。
マヤは、「この星を侵略しに来たのか?」と尋ねるダンに「こんな狂った星、侵略する価値はない」と答えている。
一時(いっとき)の「昭和」と、当時の反戦思想(ベトナム)がこのエピソードには込められている。
「迎えはまだか・・・」
マヤは心の中で叫び続ける。
このエピソードが放映されたのは1968年。
それから、世界の情勢が劇的な変化を遂げたとは言い難い。
私達に、迎えはまだか・・・