棚から牡丹餅
2020年も終わろうとしている中、非常に珍しい天文現象が見られる。
既にSNSやニュース等で情報が流れているためご存知であろうが、木星と土星の大接近が見られるのだ。
もちろん、木星と土星自体はお互い遠く離れている為、接近などしてない。
あくまで地球から見た場合の話。
因みに、木星の軌道長半径(天文単位)は5.2026、土星は9.5549なので、両惑星がざっくり言っても6.5億キロ以上近づく事は無い。
その時は、12月21日とのこと。
今、木星・土星は射手座辺りにいるので、見えるのは夕刻のお日様が沈む間際だ。12月18日の段階では、17時過ぎからギリギリ18時前くらいまで視認することができる。
私はこの数年間、気が向いたら木星は望遠鏡で覗いていたが土星はしばらく見た記憶が無い。やはり、この超有名惑星が2つ同時に観測できるのはありがたい。
物置から望遠鏡を取り出してこの2日間、宵の束の間、観望を楽しんだ。
日が沈む地平線の近くでの観望となるので、残念ながらシーイングは決して万全では無い。
やはり、両者はグラグラと揺れて見える。
像もモヤッとしているが、それでも天空ではなく水平に近い角度で見れるので、観察自体は非常にやりやすい。
普段、あまり星を見ない方でもこれは簡単に観望できる。8cm程度の双眼鏡でも十分楽しめると思う。
大接近まではあと数日間しかないが、この2大惑星を堪能するのであれば、12月21日以降であっても、十分に時間はある。あと1カ月は我々の目を楽しませてくれるものと思う。
極めて珍しい惑星大接近であるが、このような現象が以前に観測できたのは397年前。何と1623年であるという。えらい前の話で、多分、徳川家光が将軍職についた頃だ。
1623年というが、その年のいつ頃にこの現象が見られたのだろうか?
ここは、やはり自分で調べてみるのが楽しい(ステラナビゲーターを使えば一発で分かるが敢えて使わない)。さっそくシミュレーションしてみた。
自分で作った軌道計算プログラムで1623年1年間の木星・土星の軌道を調べてみた。そうすると、どうやら7月辺りでこの2つの惑星が大接近したようだ。
1623年7月8日(0:00)の位置。
・木星 赤経 8:28 赤緯 19:43 方位 162.6° 高度 -32.98°
・土星 赤経 8:32 赤緯 19:36 方位 161.5° 高度 -32.83°
午前0時でシミュレーションしたため、方位・高度は地平線の下側を示しており、この時間帯では日本からは見る事ができないということになる。
それにしてもこの接近度合いもなかなかのものだ。経度にして4′、緯度で7′ である。
この年の各惑星の動きをATLASに表示してみた。赤経8:30辺りの水色と紫の線が両惑星の移動軌跡。惑星には各々番号が打ってあるが、木星・土星の5・6番は重なっている。
7月8日の各惑星の位置関係は上図の通り。
午前0時段階では、2惑星は既に地平線に沈んでおり見えないと書いたが、ではいつだったら見えたのだろうか。
ここは、プラネタリウムソフトを用いて、1623年7月8日の星空を表示してみた。
このように木星・土星だけでなく、金星も側で輝いていた事がわかる。中々、壮観な見栄えであったかもしれない。
ただし、時期は7月の18時頃である。おそらく、陽はまだ沈んでおらず、この現象は見えなかった可能性が高い。残念ながら…
もう一つ、この絵で重要なのは2惑星と金星の間に”水星”がいる!ということだ。
こちらの惑星を見ることも極めて珍しい。
ひょっとしたら、水星・金星が並んでいるのを見る事は出来たかもしれない。これは、これで超まれな風景だ。
ところで、私の軌道計算プログラムは「7月8日」という回答を提示したが、どうやら正解は「1623年7月17日夕刻」らしい。
経度差は ”0.09°” 。
9日ほど誤差が生じているが愛嬌としたい。
1950年分点で計算していることも影響していると思う。
でも、これでいいのだ。
さて、昨日(12/18)観望できた2惑星についても同様にシミュレーションしてみた。
上図はシミュレーションであるが、実際に望遠鏡で20〜50倍で実際に見た像もほとんど変わらない。木星のガリレオ衛星もしっかりと見えた。
このような天文現象に生きている間に遭遇できることは極めてラッキーだ。
天空の物語の時間軸は極めて長い。悠久の時間軸の中でドラマは起きる。
短い人生を送る我々が、そのドラマに遭遇できる事自体が素晴らしい体験であると言えるのだ。
色々あった2020年であるが、最後に棚から牡丹餅が落ちてきた。
次の牡丹餅は、2080年3月15日に落下するらしい…